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 教師になるんだ。

 そう言って、自分の元を去っていった彼。

 その彼の名前を再び耳にしたのは、

 予想外にも火影様の口からだった。

 

 「イルカには・・・無理なんじゃ」

 

 ずっと遠方での任務を中心に請け負ってきた俺は、数年ぶりに里に戻ってきたと同時に、火影からじきじきに呼びだしを受けた。

 アカデミーで、新人下忍の指導にあたってほしいという。

 その中には、あの狐を腹に宿した子供がいる。

 その子供の元担任が、

 イルカという名の、昔の同僚だった。

 「お前にあの子を見張らせるのは、ほかにも理由がある」

 煙管の煙をくゆらせて、火影様は笠の下から鋭い視線を俺に向けた。

 「何です?」

 賞味期限がとうに過ぎた牛乳パックをテーブルに置き、俺は火影様を振りかえった。

 「イルカには・・・無理なんじゃ」

 今度は視線を俺からはずして窓の外へ向け、火影様は白い煙をため息とともに吐いた。俺は無言で次の言葉を待つ。

 

 「子供を殺すなど・・・奴にはとうてい出来ん」

 「・・・・・・・」

 

 覚醒。

 封印の解除。

 それはつまり、

 里の壊滅、

 地獄の再来を意味していた。

 

 里の長として起こすべき行動は、

 もうすでに決まっている。

 

 「・・・・それは、存じてます」

 俺の低い声が返った。

 今度は火影様が、無言で窓の外を眺めたまま、俺の言葉を待った。

 「彼とは・・・部隊が一緒でしたから」  

 

 イルカに、子供が殺せるはずがない。

 だが、あの子を育てられるとすれば、

 イルカしかいないだろう・・・。

 そんな残酷な矛盾と決断。

 俺には、その両方が理解する事ができた。

 そう、  

 その黒髪の、顔の中心に一文字の傷をもった、元同僚は、

 そういう人間だった。

 

 たとえ、

 自分の命を落としても・・・だ。  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「お花はいかが?」  

 大人の男の膝丈ほどしかない幼い花売り娘が、イルカの元に駆けよってきた。

 ここは都の中心から少し郊外に出たところ。

 繁華とはいえないが、逆に喧騒がなく過ごしやすい、村の風景。

 遠出の任務のさなか、俺やイルカも含む木の葉の忍達が、この街にしばしの休息を求めてやって来ていた。  

 とある数十万石の城主の依頼で、領地を巡るちょっとした戦に、伏兵部隊として参戦していたのだ。

 第一段階の戦場となった影浦ノ原からそう遠くない街。西方面へ退いて行った敵の軍勢を追って来た所、ここに通りかかった、という訳だ。

 「お花はいかが?」

 可憐な仕草で少女が近づいてくる。イルカはふと立ち止まり、振りかえる。

 「放っておけ。キリが無い」

 と、前を歩く俺。

 ここは、あまり豊かとはいえない階級層の人々も多いらしい。先ほどから、こうして何度も、物売りや物乞いにあっている。

 「でも・・・」

 少女に裾を引っ張られ、イルカは立ち止まる。俺も、やれやれという風に振りかえり、肩をすくめた。

 この黒髪の同僚と知り合ってもう何年が経つだろうか・・。

 花売り娘に和やかな笑みを見せる戦友を、三歩下がった場所から眺める。

 お互いに知るところは多いとはいえ、彼の行動にはいつも気をかけずにはいられない。

 膝をついて少女と目線をあわせ、笑顔を向ける大の男。そして同じく可憐に微笑む少女。

 戦場を離れればとたんにこうだ。戦の日々から俺を安穏の日常に引き戻してくれる、唯一の存在。

 「お花はいかが?」

 腕一杯に抱えた花束をイルカの鼻先にかかげ、少女は三度、微笑んだ。

 「そうだな・・・じゃあ、少し貰おうかな」

 イルカが懐に手を伸ばしながら、俺を振りかえる。

 「花なんか買ってどうするんだ?」

 俺は覆面の下でため息をつく。

 目を細めてイルカが、悪戯っぽい笑みを見せた。

 「あんたにやるよ」

 「それはどうも。花ってのは、揚げて食うと美味いらしいからな」

 珍しく冗談を口にした俺に、イルカは一瞬、黒い瞳を見開いたが、すぐにそれを細めてまた、くすぐったそうに笑った。

 俺は「早くしろよ」と視線を反らした。  

 

 「お花は・・・」

 少女の声に、イルカが目線を再び少女に向けた。

 「!」

 

 瞬間・・・  

 

 「いかが?」

 

 「っぐ・・・・・っ!」

 「!?」

 

 くぐもったイルカの声に俺が視線を戻した時には、

 「イルカっ!」

 身体を丸めてその場に倒れこむイルカの姿が、あった。

 「お花はいかが?」

 その傍で、花束を抱えて微笑む少女。

 その花束からしたたるのは、血。

 傍で倒れているイルカの腹部からも、血が筋を描いて地面を伝わっている。  

 「花に武器を隠し持ってやがったか・・っ!」

 俺は抜刀した。  刃先を少女の鼻面に突きつける。

 「お花は・・・」

 だが少女は、臆する様子もなく、血のしたたる花束を今度は俺にかかげて微笑む。

 「いかが?」

 倒れているイルカの身体をまたいで、一歩、一歩、俺の元に・・・。 

 俺は刀を抱えたまま、周囲を一瞬見渡した。

 遠まきに、街の人々が顔色を変えて何事かと騒ぎ始めている。

 傍から見れば俺は、幼い少女に刀を突きつける暴漢といったところか。

 だが、俺の決断は早かった。

 刀を振り上げる。

 

 「お花は」

 「いか・・・・・」

 

 一際、

 鮮やかな血の花弁が

 辺り一面に飛び散った

 

 鞠が転がる如く、少女の首が地を弾み、

 真っ赤に染まった身体が、糸が切れたように崩れ倒れた。

 

 対象的に一滴の血糊もついていない刀を鞘に収めると、俺は倒れて動かないイルカの元にしゃがみ込む。

 遠くで高まってくる耳ざわりな野次馬達の声を無視して、俺はイルカの肩に手を当てた。

 「・・・・」

 揺り動かそうとして、その手を止める。

 脇腹から大量に出血するイルカは、血の気の失せた顔で、定まらない息に肩を上下させていた。

 再び周囲を見渡す。

 すぐ傍に、寂れた居酒屋。

 その軒先から恐る恐るこちらを眺めていた人間の影。

 俺はその店先に駆けこむと、懐から出した財布を店の主人に放った。

 「清潔な布・・そうだな・・着物でいい、持って来い!」

 威圧する様な声で怒鳴ると、主人が慌てふためき、まろびながら奥の部屋に駆けこんで行った。

 俺は真新しい酒瓶、水桶などをひっ掴むと、店を出てイルカの元に駆け戻った。

 先ほどまで遠くで眺めていた野次馬が、いつのまにかその周囲を囲んでいる。

 「そいつに近寄るな!」

 俺の声に、肩をびくつかせて野次馬達は、蟻の子が逃げていくように散っていった。

 イルカを仰向けに寝かせ、服を捲くって傷口を診る。

 水でかるく血を拭う。

 ちょうどそこへ、先ほどの店の主人が、白いうちかけや手ぬぐいを持ってきた。

 「すまないな」

 俺がそれを受け取ると、主人は俺が渡した財布もその場に置いて、逃げるように去っていった。どうやら金には手をつけていないらしい。

 余計な事に関わりたくない・・・と。

 

 「か・・・カカシ・・・」

 かすれた声が、途切れ途切れにイルカの口から漏れてくる。

 布地を口で引き裂きながら、俺が「喋るな」と応える。

 イルカは首をわずかに起こし、手を伸ばす。

 「動くな」

 「あ、あの子供は・・・・どうした・・・」

 絶え絶えの息。

 脂汗でじっとりと濡らした顔面は、先ほどより更に青白い。

 「ガキは斬った。それより、もう喋るな」

 「な・・・」

 血止めの為に、傷口の上下をきつく布で縛る。

 痛みにイルカは顔をしかめる。

 「何・・・て、事・・・を・・・」

 その眉目にあらわれる表情は、身体の痛みよりむしろ俺の言葉にむけた憐憫だった。

 

 何を考えているんだ・・・こいつは・・・

 

 「自分の心配をしろ。喋ると身が出るぞ!」

 思わず、手当てをする手が止まった。

 「あのガキは忍だ。精神制御訓練を受けたな・・・」

 唇をかみしめ、口惜しげに俺は言葉を吐き捨てる。

 こんな時までガキの心配を第一にするイルカが、理解できなかった。

 「微塵の殺気も漂わせずに標的を殺すように育てられたガキだ」

 

 「・・・え・・・」

 「この俺も殺気をまったく感じ取れなかった・・・」

 「堪えろよ」と俺はは酒をたっぷりと布に染み込ませる。

 「っう・・・!」

 それで傷口を拭うと、イルカの身体が一度、びくりと強張って痙攣した。

 「・・・あ・・・っ・・は・・・ぁ」

 イルカの呼吸が一段落つくのを待ち、今度は傷口を布で固く縛る。

 傷口に触れる度、叫びにもならない声を喉の奥で殺して、イルカは耐える。

 「おそらく敵軍で育てられた子供達だろう」

 孤児や、売られた子供を集め、徹底した洗脳教育を行い、暗殺など隠密任務にあてがう組織が多く存在する。

 子供達は、与えられた任務、与えられた命令のみを忠実にこなす。標的を殺すことに何の疑問も躊躇も持たない。

 だから・・・  

 殺気を微塵も感じる事が出来なかったのだ・・・・。

 

 迂闊だった・・・。

 

 声を殺しながらも、苦痛に目許を歪め、せきこみ、血を吐くイルカ。

 俺にに、罪悪感がのしかかる。

 イルカは、俺の袖を強く握っている。痛みに耐えるためにすがるように。

 きつく閉じられていた目が、うっすらと開く。

 「・・・・」

 きつい血の臭いを感じ取って、イルカはその方向にわずかに首を傾けた。

 ぼんやりとした視界の中で、それでも、首がない子供の身体が確認できた。

 「・・・・・・・」

 その視線の先を、俺も追う。

 イルカが何を見ているのか・・・。

 それに気づき、俺はイルカの顎に手をかけ、自分の方を振り向かせた。

 「・・・頼むから、自分の事を考えろ。お前、今の状況が分かってるのか?」

 自分の声がわずかに上ずって震えているのが、分かった。

 喉の筋肉が、こみあげる感情に自由を奪われて、わなわなと震える。

 傷口をしばった上からまた重ねて布を捲き、きつく縛る。

 もう痛みも麻痺してしまったか、イルカは少し顔をしかめただけで、今度は声を洩らさなかった。

 

 「でも・・・」

 

 荒い息に混ざって、イルカが声を絞りだす。

 

 「・・・・」

 俺はもうそれをとがめる気もせず、ただ、正面からその目を見つめて、言葉を待った。  

 

 

 「でも・・・花は・・綺麗だったんだ・・・・・・」

 

 

 俺がその言葉を理解するまでに、  

 

 更に月日が必要だった。  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 奇遇だな。  数年ぶりにアカデミーで会った元同僚は、そういってまぶしいほどの笑顔を俺に向けた。

 「でも、あんたにだったら、安心して任せられる」

 偶然、廊下ではちあわせた。声をかけてきたのは、イルカの方だった。

 まるで俺を探しているようだった。

 「傷はもういいのか?」

 俺の言葉に、イルカはきょとんと目をわずかに見開く。

 野暮な事を聞く、と思っただろうか。

 数年前の腹の傷は、とうに癒えているはずだ。

 だがあの傷は相当の深手で、化膿する危険性は十分にあった。

 全快する姿を確認する前に、俺達はそれぞれ離れていったから・・。

 あれでも俺なりの、気の効いた挨拶だったのだが。

 だがそれも酌みとってか、イルカは再び目を細めた。

 「ありがとう、もうすっかり。それにしても、よく知ってたな、背中の傷の事」  

 

 え?

 

 俺はつい、目を見開いて硬直した。

 背中?

 

 そんな俺を後目に、イルカは照れて鼻の頭を掻きながら

 「カッコ悪いなぁ・・・そんなに話が広がってるなんて・・」とぶつぶつ呟いている。

 

 それとなく話を聞きだしてみれば、

 最近子供をかばって大怪我をしたという。

 

 あの、狐小僧を。

 

 里でのんびりと教師をやっていれば、あの時のような目に遭う事はないだろうとふんでいた俺が、またもや迂闊だった。  

 

 

 俺は額に手をあてて大きなため息をついた。

 「・・・で、背中の傷の方は?」

 「え、だからもう大丈夫・・・・・・?」  

 何も理解出来ていないこの元同僚は、首をかしげながらも、笑顔で俺に応える。  

 

 

 あまりにも脆く、危うい、だが尊い存在・・・

 

 

 それを守る為ならば、  

 

 だから俺は・・

 

 

 

 

 花を美しいと思う心など

 

 

 

 もういらない・・・・・     

 
 

 おわり。

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2005.10.25.Tue/14:10
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北野ふゆ子

Author:北野ふゆ子
> 昔は、ゲームやマンガの二次創作をしておりました。現在は主にオリジナルネット小説を執筆しています。 得意は「シリアス」「アクション」「サスペンス」です。

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