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  ピクシーの女王 Vol.2 
ピクシーの女王



phrase two





 コボルト村の村人数人に案内され、マイクロトフ率いる青騎士隊は黒の森入り口を見下ろす丘陵まで来ていた。
「森の中へ流れていく川に沿って上っていくと良いでしょう」
 そう指し示された先には、徐々に幅を狭めていくゆるやかな川の流れが黒い森へと吸い込まれていくようにつながっている様子が見えて取れた。
「なるほど…」
 済んだ水の穏やかなせせらぎの元を辿ってマイクロトフは丘陵の頂から森を見渡した。常春である一帯の気候を象徴するように濃緑の木々が黒いほどに鮮やかな緑を茂らせている。

 穏やかな風。
 川の水は澄み、透明。
 肌に心地よい気温。
 そして静かな空気。

 それは、人を寄せ付けない森が放つ拒絶の空気なのだろうか。

「………」
「………」
 しばし頂から微動だにせず森を見下ろし眺めるマイクロトフの背中を、部下達も無言で待った。
 戦場で、任務で、
 よくこうしてマイクロトフは一点を見つめて立ち尽くす。
 団長は今何を考え、思っているのだろう。
 若い騎士達はそんな好奇心を現した瞳でマイクロトフを眺めている。何か策を講じていらっしゃるのだろうか…などと。
 だが年を重ねる騎士ほど、こうして無言で一点を見つめている時のマイクロトフが、何も考えていない事を知っている。
 かつて上司として同じ小隊に所属していた副長のセタも、それを知る者の一人だ。じっと、我慢強く彼もマイクロトフの背を見つめて待つ。
(違う…)
 そして内心で、若い騎士達の言葉を否定する。
 彼は考えているのではない。
(感じているのだ……)
 と。
 マイクロトフの直感は天性だ。
 緻密な計算と打算と心理術の集大成であるはずの軍略事も、この団長の前には無駄な労力。彼が肌で感じる空気と直接的に脳裏に過ぎる感覚に素直に従った時が、結果的に青騎士団にとって最も良い結果をもたらすのだ。それが適切であるか否かはまた別の次元として。
 この点において赤騎士団長カミューはマイクロトフと極対にある。緻密な計算、幾重にも考慮された先読み、先見性。カミューの軍略は常に確実性の元にある。それはやはり赤騎士団にとって最良の功績をもたらす。
 人間誰しも命が惜しい。
 確実な根拠の元に成り立つ策を案じるカミューの配下にいればどんなに気が楽か、とセタは思う。しかしそれでもやはり自分は、マイクロトフと共に極地を渡りきった先で得る奇跡を追い求める事に生きがいを感じてしまうのだ。彼を敬愛する青騎士ら誰もがきっと、自分と同じなのだろうと、思う。
「………?」
 突然、微動だにしなかったマイクロトフが眉根を顰めて振り向いた。
「………」
 最初に視線がぶつかったセタ、そしてそこから若い騎士達を見回して背後を見渡す。誰かを捜しているように。
「どうかされましたか?」
 口火を切ってセタが青騎士を代表して尋ねる。
「ん…?……なんでもない」
 言葉とは裏腹にどこか納得いかない面持ちで首をかしげてマイクロトフは再び視線を森へと向けなおした。

 くすくすくす……

(まただ…)
 耳元を通り過ぎて行った、笑い声に似た風。マイクロトフは右手で右耳を覆った。否、これは風ではない。明らかに人の笑い声だ。しかも、まだ幼い恐らくは少女の。
 だが背後に控えているのは青騎士達。
 案内人のコボルトは帰っていってしまっている。
 だとすればこれは、森に潜む魔物なのか。
 あまり良い予感はしない。
 むしろ、近寄りたくない気分だ。
 しかし彼には責務がある。
「準備は良いか」
 再び、今度は改まってマイクロトフは背後を振り向いた。
 セタの頷き。
「よし」
 杖のように前に突きたてて手を置いていた剣を手にとり、マイクロトフは森を指し示した。
「全隊、森を目指すぞ!」
「応!!」
 一斉に足が揃い、声が上がる。

 くすくすくす…
 おいで…?

 マイクロトフの耳元ではまだ、少女の声が木霊していた。


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2006.07.06.Thu/00:24
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> 昔は、ゲームやマンガの二次創作をしておりました。現在は主にオリジナルネット小説を執筆しています。 得意は「シリアス」「アクション」「サスペンス」です。

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