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  ピクシーの女王 Vol.1 
ピクシーの女王



phrase one





 コボルトの村より更に西北奥に、「黒の森」と呼ばれる一帯があった。
 一年を通して暗く湿っており、獣もろくに住み着かない。だが、時折何やら人間か、人外の者の笑い声やら嬌声やらに似た風音が、森から村までも響いてくるという。
 その不気味さに、村の人間を始めその周辺に住む民族達は、誰もその森に近づかないのだ。
 だが特にこれといった被害も無いために、その森は「黒の森」と名付けられ誰も近づかない事でそこら一帯の平穏は守られていた。
 しかしその森にも、異変が起こり始めているという。
 本来ならばそこに生息しないはずの北方から移動してきた獣や魔物が、黒の森に住みつき始めたのだという。
 家畜をあらされるなどの被害が周辺村で起こり始めていた。
 このままでは人的被害も時間の問題。
 コボルト村長がゲンゲンを通して新同盟軍に「黒の森」捜査を依頼してきたのは、そんな折。
「コボルト民族は優秀な戦士一族。我が軍にとっても大きな戦力をもたらしてくれましょう。ここは恩を売っておくべきです」
 軍師シュウの提案により、軍主リューは新同盟軍からマチルダ騎士団の一部を「黒の森」に派遣する事とした。
「留守番とは、つまらないな」
 カミューは不機嫌そうに足を組んだ。
「留守番ではない。待機だ」
「それを留守番、というんだ」
 シュウとリューに呼ばれたマイクロトフが団長室に戻って来ると、彼は早々に出軍のための身支度をし始めた。小声で文句を漏らすカミューを彼は忙しなく準備を進める手を動かしながら宥めるが、カミューの機嫌は治りそうにもない。
 今回黒の森には、「偵察隊」として青騎士団の一小隊が向かっていた。そこから送られてきた情報によると、確かに黒の森に土着ではない獣が多数、棲みつくようになっていたという。早馬が詳細な資料などを送ってよこしてきた。それを元に、本格的な捜査、討伐隊として、マイクロトフ率いる青騎士の数隊が出軍する事となったのだ。
「北方方面の獣は強暴な奴が多い。くれぐれも気をつけろよ?」
「大丈夫だ」
「どうだか…」
 自らを省みない性格の親友の身を、こうしてカミューは毎回のように案じなければならない。彼がマチルダ一の剣豪であった事を、不本意だが神に感謝するしかなかった。
「そんな事よりも、ここだっていつ何が起こるか分らん。しっかり軍主殿や皆をお守りするのが今回のお前の役目だ。お前こそ、きちんと身の持ちまわりに気をつけろよ」
 やはりここでも人の心配ばかりしている。
 生真面目な彼らしい。
 マイクロトフは荷造りする手を止めてカミューを振りかえる。毎日耳にする説教にカミューは笑みを作りながら肩を軽く竦めた。
「はいはい、ありがとう」
「返事は一回だ」
「は~い」
「伸ばすな」
「アイ・サー」
「ふざけるな」
 三巡りしたところで、お互いが顔を見合わせて笑い出す。軽い口喧嘩なども、大抵はこのパターンでお互いが妥協して許容しあえてしまうのだ。結局はカミューも、笑って送り出す他なくなる。
 部下達がひそかに称するところの「団長三段活用」のやり取りはしばし、騎士団内で耳にする事ができるのだ。
 ちなみに、偶然これを耳にした事のある軍主リューの義姉ナナミは、これを「ボケとツッコミ夫婦漫才」と呼んでいる。
 そんな彼女にも見送られて、マイクロトフ率いる青騎士達一行は、ビッキーの瞬間移動魔法によりコボルトの村へと出立していった。
「魔物討伐任務はマイクロトフ様のお得意とされる所ではないですか。きっとご無事にお戻りになりましょう」
 机の上に山積みにされた書類と向き合っていたカミューに、団長室へと印を貰いにやってきた部下、赤騎士団第三騎馬隊長が、書類を手渡しながらそう言う。
「……何故そのような事を?カル」
 書類を捲るカミューの手が止まり、琥珀色の目が下から見上げてくる。
 通称カル、本名カイロス第三騎馬隊長は「さあ」と意地悪な子供のような笑みを見せた。ようやく印を押し終えた書類を受け取り、
「ご自分のお顔を鏡でご覧下さい」
 カミューの背中へ沢山の陽光を注ぐ硝子窓を指差した。
「………」
 片眉を訝しげに顰めてカミューはそれに従い背後を振り返る。ちょうど陽が高く上った時間の今、硝子は鏡のように鮮やかな紅色の衣装を纏ったカミューの姿を鮮やかに映していた。
「…………」
「どうです?」
「相変わらずの良い男ぶりじゃないか」
「うわ、そう来たか」
 思わず同僚時代と同じの言葉で呟いてカイロスは苦笑いを吐き出した。カミューは硝子に手を当て、そこに映る自分の顔の向こうに広がる風景に視線を移していた。天気は良好だ。
「分かりましたよ。いつも通り、という事ですね」
 硝子に映る、既に印の押された書類を確認するカルの姿。そこに向けてカミューは「そういう事だよ」と返す。そしてまた視線を外界の景色に映そうとした時…、

 くすくす

「……」
 硝子に映るカルのすぐ隣に、
 先ほどまで存在していなかったはずの人影が現れていた。
 髪の長い、瞳の大きな、少女…?
「…!?」
 肩に羽織ったマントが大きく翻るほどに、
 カミューは勢いよくカルを振り向いた。
「………どうしました?」
「……」
 そこには、書類を捲る手を止めて目を丸くし顔を上げたカルと、先ほど入室してきた補佐官ヴァラシュの姿だけ。
「カミュー様?」
 様子が訝しいカミューに、ヴァラシュの声が後方からかかる。
「……」
 素早く瞳だけで室内を見渡すが、そこにはカルとヴァラシュ以外の人間は当然いない。
「なんでもない。大丈夫だ」
 気のせい。
 瞬時にそう答えを出してカミューは再び執務机前の椅子に腰掛けた。

 くすくす

 それでもまだ、
 耳の奥で少女の笑い声が響く。






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2006.07.02.Sun/09:48
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北野ふゆ子

Author:北野ふゆ子
> 昔は、ゲームやマンガの二次創作をしておりました。現在は主にオリジナルネット小説を執筆しています。 得意は「シリアス」「アクション」「サスペンス」です。

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