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  ピクシーの女王 Vol.0 
ピクシーの女王



序章




 カミューとマイクロトフには、微妙な記憶のズレがある。 

「カミュー団長とマイクロトフ団長が初めてお知り合いになられたのは、いつだったのですか?」
 新同盟軍本拠地内の、昼はカフェテリアとなるレストランにて。
 両騎士団長が数人の若い騎士達に囲まれて共に軽い昼食をとっていた時のこと。ふと、若い騎士がそう尋ねてきたのだ。
 先に答えたのは、カミュー。
「正騎士採用試験でだよ。剣術の試験試合で対戦したのが、最初だったよね」
 同意を求めて傍らのマイクロトフに視線を送ったのだが、
「え?」と冴えない応えが返って来た。
「え?」と思わず鸚鵡返しにカミューは口に運びかけたフォークを止めた。
「違うのかい?」
「……もっと前に会っていなかったか?」
「いや?幾つの時に?」
 記憶のすれ違いに首を傾げる両騎士団長。
 若い部下達は興味深げにそのやりとりを眺めていた。
 下位騎士達にとってマチルダ時代には決して見ることの出来なかった団長の私的会話。その時の表情の一つ一つまでも全てが、珍しいのだ。
「………俺が…十……ニ、三の時…」
「それは無いよ」
 珍しく曖昧なマイクロトフの言葉を、カミューがあっさりと否定する。
「私は十六までずっと、グラスランドにいたからね。ロックアックスには試験を受けた年齢、十七になる少し前に初めてやってきたんだよ」
「そうなのか。では、あれは誰だったんだ」
 合点がいかない様子で眉を顰め、懸命に記憶をさぐるマイクロトフ。無意識に動かしていた人差し指がグラスに当たり、その度に涼しげな音を立てていた。
「人違いかい?」
「……いや、でも確かに俺は、その琥珀色の髪と、瞳の、そしてその赤い騎士団長服を着込んだお前を知っていた。記憶が非常に曖昧なのだが、しかし何故か、俺はお前を知っていたのだ」
「この騎士服かい?その年齢の時に私が騎士団長である筈がないだろう?」
 カミューの言葉に、はっと気がついたようにマイクロトフが顔を上げた。
「…そうだよな。そうだ。俺が十二の時にお前が赤騎士団長であったはずがないんだ。…そうだ。当たり前じゃないか」
 自らに言い聞かせた。それでも「しかし…」とマイクロトフは額に手を当てて悩み出す。意固地で頑固で中途半端を許さない彼が一度こうなると、納得がいく答えが出るまで終わらないのだ。
「前の赤騎士団長殿ではないのか?」
「前赤騎士団長様も、その前の赤騎士団長様も、いずれもロックアックスご出身の黒髪でしたけれども」
「ああ、そう」
 カミューの仮説は若い騎士の情報により即刻却下されてしまった。
「だいたい、試験会場で会った時には何も言わなかったじゃないか」
 とカミュー。試験会場にて「初めまして」と手を差し伸べたら、ぶっきらぼうにも「初めまして」と手を握り返してきたマイクロトフの姿を、彼は忘れてはいない。
「あの時は、初めて会ったと思ったからだ」
「なんだそれは」
 マイクロトフのよく分らない理屈にカミューは苦笑する。だが本人はいたって真面目なようだ。「馬鹿」がつくほど自分に正直であり、生真面目で正確で真直ぐな人間。
「しかし今この年齢になって改めて思い返してみれば、あの時が初めてではなかったように思うんだ」
「ファンタジー文学でも読んだのかい?」
「俺にそのような趣味は無い」
「そう?私は好きだよ。そうだな…今のマイクロトフにぴったりな話をしてあげようか。きっとそれはピクシーの仕業かもしれないよ」

「ピクシー?」

 深森や渓谷の奥地に生息する妖精属のモンスター、ピクシー。高度な魔法の他、人間の解地に無い特殊な妖術を操る。
 だがその姿を目にする事は稀で、その希少価値から商人世界の間ではその羽を煎じて服用すれば万病の解毒薬にもなるといわれ、高い値段で裏取引が行われているとも聞く。
 魔物退治任務の経験は多いが、マイクロトフを含め騎士団の中でこれに出会った者はまだいない。
「ピクシーの中でも高度な妖術を使う、いわゆる女王格のピクシーというのがいるんだ。美しい容姿、魅惑的な声音。黄金の羽を持ち、頭から生やした触覚は高貴な冠のごとく銀色に輝いているとか」
「………」
 何が言いたいのだとばかりに不思議そうな面持ちでマイクロトフは冷たく冷やされた飲み物を口に含んだ。
「その女王ピクシーだけが使えるという特別な魔法があるのだが…」
 カミューの語り口に若い騎士達の瞳が引き込まれるようにそちらに集中している。
「人間の記憶を盗んでいってしまうというんだ。昔見たグラスランドの民話の中に、不幸にも女王ピクシーに気に入られてしまった男が、次々と記憶を取りかえられて、波乱万丈、面白おかしい人生を送ったというものがあるんだ。時には他国の王様。時には酒屋の踊り子。時には占師…とね。面白そうな話だろう?」
「っ!」
 濡れたお絞りを突然額に当てられて、マイクロトフは驚いて身を引いた。手にしていたグラスを落としそうになり慌てて両手で抑える。その仕草に騎士達は、今度はマイクロトフの方を振り向いた。
 そんな様子を軽く笑いながらカミューは
「お前も、記憶を盗まれて挿げ替えられたのかもしれないね」
 と、少しだけ意地悪く不敵に微笑んだ。
 反してマイクロトフは、目を細めて拗ねたように溜息。
「お前、俺を馬鹿にしているだろう」
「うん」
 即答しながらカミューはテーブルに備え付けてあったキャンディーボールに入っていたチョコレートを一つ、口に放り込んだ。
「………」
「おや?」
 ここでいつもなら、「ふざけるな」と苦笑と共に軽い拳骨の一つも降ってくるのだが、カミューの予想に反してマイクロトフは冷たいグラスに滴る水滴の行方にじっと目をやったまま無言になってしまった。
「……ごめん、怒ったのかい?」
 流石に心配になってカミューは慌ててマイクロトフの顔を覗き込む。若い騎士達も、自分たちが向けた質問が余計な事であったのか、何かシラの傷にでも触れてしまったのかと不安になり、誰もが目を伏せ気味に黙り込んでしまっていた。
「え?」
 場の空気の変化に気づいたマイクロトフが顔を上げる。
 自分のせいで折角の憩が盛り下がりかけていた事に自責の念を抱く。
「悪い。いいんだ。恐らくは俺の勘違いだと思う。気にしないでくれ」
 慌ててそう取り繕った。
「なら良いのだけど」
 カミューが柔らかく笑った。
「折角だから、入団試験の時にマイクロトフと対戦した時の話でもしようか」
 そう付け加えると、若い騎士達が途端に顔を輝かせた。
 その流れのまま、カミューはいつもの如く面白おかしく、試験当時のマイクロトフがいかに緊張してガチガチだったか、自分が慣れない城内で迷子になっただのと、冗談をまじえて語り聞かせる。
 すっかり場の空気は温和なものに戻り、むしろ若い笑い声が幾つもあがり、華やかに盛り上がった。
 やはりカミューは流石だなと、マイクロトフも話に耳を傾けながら内心で親友に感謝の辞を述べる。
「あら、オモシロそうなお話しね」
「混ぜて混ぜて!」
 カミューの珍しい昔話を聞きつけて、テーブルに次々と新同盟軍の若い面々が集まってくる。
 いつの間にかレストランの中は、皆の思い出話に花で咲き乱れていた。







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2006.06.19.Mon/17:39
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Author:北野ふゆ子
> 昔は、ゲームやマンガの二次創作をしておりました。現在は主にオリジナルネット小説を執筆しています。 得意は「シリアス」「アクション」「サスペンス」です。

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