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  逆拘 第5話 
 
  逆拘5

 

 体中全ての神経を走る痛みに、カカシは声さえ出せずにその場に崩れ倒れた。
 全てが、目に映る全てが、まるで遅回しの映像の様に緩慢に揺れている。
 森の濃緑に遮られて薄暗い森が、意識と共に暗闇にとけ込んでいくようだ。

 そんな中で、

 腹部が焼けるように熱い。
 そこだけ、鮮烈な感覚をかろうじて保っていた。
「馬鹿な………」
 カカシの脳裏に浮かんだ、最初の言葉だ。
 先ほどまでイルカを蝕んでいた殺気や悪気は何も感じられなかった筈なのに…。
 現に今も。
 地に伏すカカシの眼に、イルカの足先がある。
 一度、砂利を踏みつぶすように動いた。
「い、イルカ先生っ…!」
 と背後から、ナルト達の叫ぶ声がして、
「カカシ先生っ!しっかり!!」
 すぐさまサクラがカカシの側に座り込んだ。

 -馬鹿野郎 こういう時は逃げろ

 叫ぶべき言葉も、痛みが喉を塞いでしまっている。
「どうして、どうしてだよ!イルカ先生!!カカシ先生が分かんないの!?」
 ナルトが、イルカの腰にしがみつく。
 そこから見上げるイルカの、紅に塗れた手が見えた。

 -早く逃げろ 殺されるぞ

 薄れ駆けた意識の中、声にならない声でカカシは叫ぶ。
 それは声にならず、喉の奥でかき消される。
 カカシの側にしゃがんだサクラも、イルカを見上げる。
 ナルトの隣に立つサスケが、腰にあった苦無にそっと手を伸ばす。
 だが、イルカの口からは
「分かるさ…。当たり前だろ?カカシ先生はカカシ先生じゃないか。お前達の担当の上忍で………」
 という、
 安穏としたイルカの声。言葉。
「何言ってるんだ三人とも…」
 と微笑みさえする。

「え……?」

 震える声が三つ、重なった。
「…………何……?」
 薄れ駆けた意識を突き刺されたように、電流が走った気がした。
 穴をあけられた腹を押さえていた両手が、血で塗れている。その両手を地面につくと、カカシはやっとの思いで上半身を起こし、頭を上げた。
「カカシ先生…っ」
 寸時、安心したように表情を輝かせたサクラだが、ぼたぼたと音をたててカカシの腹から血液が滴るのを目の当たりにして、青くなる。
「…………」
 イルカと眼が合った。
 途端、イルカの表情が変わる。
「………カカシ…先生……?」
 口元から、言葉が零れ出すように、カカシの名が紡がれた。
 未だ血が滴る右手を胸の前に掲げたまま、イルカがふと気づいてカカシに向き合う。
 腕の力だけでようやく顔を上げているカカシに、
「……流石、しぶといですね……」
 イルカの右手が伸びた。
 「!」
 「待て!」
 顔を強ばらせたサクラの前に、サスケの手が突きだされてイルカの腕を取った。
 強くサスケの手に握られて、イルカは「どうした?」と言いたそうにサスケを振り向いた。
 双眸に鋭い光を宿し、サスケは厳しくイルカを見据える。
「どうするつもりだ…。殺すのか、こいつを……!何故」
「………何故?」
 サスケの言葉に、イルカの眉間が動く。
「殺さなければならないからだ」
 けれど…
「殺したいわけじゃない…」
 でも
 殺さなければ
 殺すべきだ
 殺す
 どこだったか
 いつだったか
 感じた事のある、感覚。
 ただ一つ、
「殺せ」という「命令」のもとに、ただ動く自分……

「ああ、そうだ……」
 サスケに捕まれた腕を、イルカが軽い仕草で振り解く。
 止めようと動くサスケより早く、イルカはその場にしゃがみ込むとカカシの顔を包み込むように右手を当てた。
 その指先に、人とは思えない力がこもった。
「ぐっ…」
 頭蓋骨が軋む。
「やめてってばイルカ先生!!」
 ナルトがその腕に飛びついて、引き剥がそうとする。
 サスケやサクラもすかさず、イルカの腕を懸命に引く。
 だが、まるで鉄のように、びくとも動かない。
 三人の子供達が腕や肩を掴んで引き動かすのも余所に、
 イルカの瞳はただ一点
 自らの指の間にある、カカシの額当てに隠れた瞳のみに、向いていた。
「……写輪眼…………」
 イルカの、低い呟き。
 カカシの顔を掴む指の間から、イルカの表情が冷めていくのが見えた。

 写輪眼

 忌み呪われた、傷を残す己の左目。
 だが今ほど、その運命を自ら呪った事は無い……
 唯一露出しているカカシの右目が、見開かれた。
「……っくしょう!」
 鋭く吠えて、カカシは在る力全てで体を起こすと、
 顔を掴むイルカの腕を叩き解いた。
「!」
 反動で、イルカの体がわずかに揺らいだ。
 その隙に、カカシは左手で腹部を押さえつけた体勢で後ろに飛び退いた。血痕が跡をつける。
 サクラが苦無を抜いて、カカシの前に立ちふさがるように両手を広げた。
「……」
 イルカがゆっくりと、その場に立ち上がる。
 まだ力が入ったままの、右手を見つめて。
「ところでナルト……」
 呟くように名前を呼ばれ、
「な…何……?」
 眉間に皺を寄せたナルトがおそるおそる、応える。
 イルカは、赤く塗れた手のひらを見つめたまま、空虚を写した瞳で問う。
「俺……何をしていた……?」
「え…?」
「書類と薬を届けに来て………それからどうしたっけ……?」
「イルカ……先生……」
 ナルトの隣で、サスケが振り払われた手の甲を擦る手を止めた。
 しばし掌を見つめて思案していたイルカだが、やがて決心したように顔を上げた。
 血に濡れた掌を、きつく握り締めると、そこから血の滴りがおちた。
「まあいい……。とにかく、『あの人』を殺さないと……………」
 黒曜石の瞳が鈍いろに光った。
「!」
 一番先に、顔色を変えたのはサクラだった。
「嘘……まさか……」とうわごとのように呟く。
 サスケが、サクラを一瞥する。
「く………っ…」
 止めどなく流れる腹部の血を手のひらで受けながら、
 唇をかみしめる事で目眩から逃れて、
 覆面の下から荒い息を吐き、油汗を額に浮かべて…

 カカシも眉目に影を落とした。

「そのまさか……だな………」
 術が中途半端に解けかかった状態で
 正当では無い形で強制的に術者が死ぬ事で操作が解かれたのだ
 イルカの身体と精神に、多大な圧力と不可がかかってしまったのだろう。

 完全に
 彼の精神は混沌の中にあった。

 カカシを殺す

 この最も強い「命令」だけが残ってしまった。

 しかもイルカの場合…………
「私のせいだ……私が余計な事をしたから………」
 苦無を握るてを震わせて、細く小さな体全体を縮ませて、サクラは息をのむ。
 声調も、震えて消えゆきそうに涙に揺れていた。
「お前がいなければ、俺も先生もお前達も、死んでいたさ……」
 精一杯の呼吸でカカシが絞り出した言葉に、サクラは勢い良く首を振った。
 目尻にたまった涙が飛ぶ。
 潤んだ視界の中で、ナルトとサスケの制止を振り解いてこちらに向き直るイルカの姿がある。
「ど…どうしたら…どうしたらいい?…何をしたらいいの…っ!」
 苦無を握り、両手を広げて大の字になってカカシの前に立ち塞がったまま、サクラは声を震わせた。
(…………畜生……)
 巡らせようにも、朦朧とする意識が思考力を奪い取っていく。
 多量の出血に、体温が奪われて寒気さえ覚えてきた。
 体をさせていた膝が、少しずつ笑い始めている。
 呼吸も、おぼつかなくなってきた。

 ………畜生っ……!

 自分の全てに、カカシは嫌悪した。
 以前の自分には考えられない、油断。甘さ。
 何がここまで己を変えたのか……それさえにも
 忍びの掟に従って任務に従事していた頃の己を、思い起こす。
 窮地に対する処方は、決まり切っていた。

 この場合、中忍が死ぬべきなのだ
 当たり前の事ではなかったか。

 知らず、嘲笑が口元から血と共に漏れる。
 定石通りに動いたなら、始めにイルカを殺し、その後に三兄弟を始末すればそれで済んだのでは無いか。
 気を失わせようなどと、下手な画策よりよほど簡単だったはずだ。

「畜生……っ…」
「え…?」
「最悪だ」
 血反吐と共に吐き出されるカカシの独言にサクラは背筋を震わせた。
 冷たい汗が伝っていく。
 少し遠くで、直立したイルカがこちらを見据えている。
 彼は今、ただ一つの意思の元に動いている。

「カカシを殺す」

 私情や欲求や都合
 そして、位、掟さえも
 全てを放棄し、消去して、ただ実行する。
 それが、特工。

 一方、示された標的を地獄まで追い仕留める。
 徹底した上下関係。徹底された掟の厳守。
 それが、暗部。

「最悪だ……」
 もう戻るまいと、思っていたのに……。
 もう戻らせまいと、思っていたのに……。

 

 

続く
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2006.06.17.Sat/13:29
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