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  時計家族 
時計家族


 塾で同じクラスに、はせの君っていう男の子がいる。
 すごく頭が良くて、いつもテストでは一番。
 うちの塾は、席順が成績で分けられるから、はせの君はいつも、一番前の真ん中、つまり最優秀生徒が座る席に、座っている。
 どんな子かって?よく分からない。
 一度も話した事が無いから、どこに住んでいるだとか、どこの小学校に通っているだとか、趣味は何とか、全然何もしらないの。
 話しかけてみればって?それは無理。
 だって、授業が始まる直前ちょうどに塾にやってきて、終わったらすぐに早足で帰って行くの。休み時間は、席に座ったまま、ノートや教科書をうつむいて見ているだけ。
だから、だれも話しかけないし、はせの君から話しかけてくる事も無い。
 もう、いてもいなくても分からない存在になっている。教卓のすぐ前に座っている、人形みたいな人。
実は顔もよく思い出せない。気にも留めていないし、いつもうつむいているからね。
 背は中くらいで、太ってもやせてもいない。なにもかも普通で、特徴が無いから余計に思い出せない。
ほら、今日も、塾の授業が始まる五時の一分前、はせの君が教室に入ってきた。前の扉から、教卓の前を通りすぎて、真ん中の席へ。
 かばんをかけて、イスを引いて、かばんの中から、いつもペンケース、ノート、教科書、下敷きの順番で出す。
そうしている内に、先生がやってくる。はせの君は、シャーペンを持って待ち構える。
 いつもあんな感じ。
 休み時間は、トイレにもいかないでうつむいたまま。
授業が終わったら、さっさと帰り支度をして、もう教室を出て行った。
 今日もいつもと同じだった。
 ちょっと後をついて行ってみようかな。
 塾のビルを出て、すたすたすたすた、駅に向かって一直線。ちかちかと赤に変わろうとする信号をすり抜けて、でも電車には乗らないでガードレールの下を潜りぬけて行く。
駅からの長い坂を登りきってまた下りて、細い小道を通り抜けると、一軒家が並ぶ住宅街の一角。あら、私の家の近所だった。
 はせの君が帰って行った家は、私の家の裏通りにある目と鼻の先。二階の私の部屋から見える。全然、分からなかった。
夕飯を終えて、二階の窓からながめてみると、はせの君の家にも明かりがついていて、カーテンに影が映っていた。
こんなに身近にいたのに、本当、気がつかなかったなんて。

 それからの日々、私は何となくはせの一家が気になり始めた。
 え、聞きたい?
 聞いても仕方が無いよ。つまらないもの。
 いーーーーーーーっつも同じ毎日。
 まずね、平日の朝は、六時四十五分ちょうどにみんな起きるの。私はタロの散歩があるから、いつも六時に起きて、七時前には家にいつもいるのだけど、六時四十五分の天気予報が始まると、ちょうどに、本当にちょうどにみんな起きるの。私の部屋にいると、目覚ましの音まで聞こえる。
それで、七時半にお父さんが、本当にちょうど七時半に家を出て、七時四十分にはせの君が、本当にちょうど七時四十分に家を出るの。知らない学校の制服を着ていたな。
私は、八時に家を出るからその後はせの君のお母さんが何をしているかは分からない。
 で、夕方は、塾がある日も無い日も四時半ちょうどに、本当に四時半ちょうどにはせの君が学校から帰ってきて、八時ちょうどに、本当に八時ちょうどにお父さんが帰ってくる。
夜は、十一時に、本当に十一時ちょうどに一斉に電気が消えて寝てしまう。
 一分一秒くるいが無い。
 本当、時計みたいな家族。
 え?よくそんなに観察したなって?
 だって、もうあれから一ヶ月間、時々しか観察してなかったけれど、いつもいつもいつも、同じ時間に同じ事をしているから、嫌でも気付くよ。
 一度なんてね、塾が無い二日間連続して、ずっと窓から観察していた事もあった。そうすると、全く同じ日が二日続くの。
 間違い探しパズルをしているみたい。
ううん、パズルのほうが簡単なくらい。前の日と、次の日の違いを見つける事が出来ないくらい、毎日毎日毎日同じ同じ同じ同じ。
 時計家族だね。


グラグラグラグラ
ガシャンッ ガラガラッ
 
 
 びっくりした、昨日。すごい地震だった。
 この辺りの震度、五だって!
 本棚や、タンスがぐらぐらして、本が落っこちてきた。壁にかけてあった絵や時計、棚にかざった置物も落っこちて、壊れた。
 玄関に飾ってあった時計も壊れて、捨てた。
はせの君一家は、どうしていたかな。
 今日も塾がある。
 五時前に塾へやってきた私は、はせの君がくるのを待った。友達と話しながら、内心、教室の入り口を見ていた。
 五時一分前。
 ちゃんと電話の時報で正確に合わせてきた私の時計が四時 五十九分をまわった。
 あれ?
 来ない。
 四時五十九分 十秒
 来ない
 四時五十九分 二十秒
 来ない?

ガラッ

 あ、来た。
 はせの君がやってきた。
 前の扉から、教卓の前を通りすぎて、真ん中の席へ。かばんをかけて、イスを引いて、かばんの中から、いつもペンケース、ノート、教科書、下敷きの順番で出す。
 そうしている内に、先生がやってくる。
「よう、昨日の地震、ひどかったな。先生の家も、上から時計が落っこちてきたりして、大変だったぞー」
 と先生。
 はせの君は、シャーペンを持って待ち構える。
 二十秒遅れたけれど、いつも通りだ。
 休み時間も、トイレにもいかないでうつむいたまま。
 いつものはせの君。
 もう観察するのがいいかげんにあきてきた。
 だって、毎日同じ同じ同じ同じ。
 きっと私ももうすぐ、はせの君の事なんて忘れて、はせの君を知らなかった日に戻る。
 そう思うと、はせの君って気の毒な人だと思う。

 そして今日も何事もなく塾の授業が終わった。
 さて、今日は帰りに本屋でも寄ろうかな、と考えながらふとはせの君の方を見る。
 あら?
 いつもなら早々と教室から姿を消しているはずなのに、はせの君はまだ席に座っていた。
 私は時計を見た。
 先生はいつも七時ちょうどに授業が終わる。
 先生が出ていくと同時くらいに教室を出て行くはせの君なのに。
 七時 十秒 
 まだ座っている。
 七時 二十秒
 あ、立ち上がった。
 そして、はせの君は早足に教室を出て行く。
 何だ。結局、いつもと同じだ。
 ただ、今日は二十秒遅れただけで。
 私もその後に続いて教室を出た。
はせの君は塾のビルを出て、すたすたすたすた、駅に向かって一直線。
 あとはいつもの通りだろう。
 点滅する信号をすり抜けて、ガードレールの下を潜りぬけて、坂を上って下りて行く、いつものルート……

 あ
 はせのくん
 あぶないはせの君!
「はせの君止まって!」
 信号、赤―――――――…・

ドンッ

―――…・ざわざわざわざわ
…・ぴーぽーぴーぽーぴーぽー…・
 

「ご近所のはせのさん、知ってるでしょ?ご主人さんが亡くなったんですって」
 家に帰ると、お母さんが青白い顔をしていた。
「踏み切りを無視して歩いて、電車にひかれたんですって…・」
 はせの君のお父さんも、きっと二十秒遅れていたんだ。
 私は、ふと玄関の時計に気がついた。
「これ、この間の地震で落っことしたよね」
「え、ええ。それがどうしたの?」
 お母さんが不思議そうな顔をした。
「二十秒、遅れてるよ」
 と私は言った。        


おわり
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2006.05.13.Sat/11:49
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> 昔は、ゲームやマンガの二次創作をしておりました。現在は主にオリジナルネット小説を執筆しています。 得意は「シリアス」「アクション」「サスペンス」です。

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