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  武道家の弟子 


 

武道家の弟子

 青騎士団は、三色あるマチルダ騎士団の中で最も武力派である。城外警備や辺境警備などを担う機会の多い青騎士団は、戦場では前線を張る役目も多い。
 代々この青騎士団の団長は、堅実、真面目、そして訓練、精進に熱心な者が揃い、己以下、部下達の鍛錬にも手抜きは無い。

 当然、現青騎士団長マイクロトフも、他例に漏れないのだ。

「騎士は剣さえ使えれば良いものではない。戦場に限らずいつなんどき、武器を失う事があるか分からない。そんな時、素手、丸腰でいかに戦うかが生き残るための大きな鍵となる」
 青騎士団の定例訓練。いつものようにマイクロトフの朗々とした声が稽古場に響く。だが、今日は多少様子が違うようだ。騎士達はいずれも重い鎧と剣を身から外し、青い制服の上着を腕まくりした軽装となっている。
 マイクロトフも、今日は重い肩当と首当てをはずしている。

 本日は、体術の稽古なのである。

 東部の国は、体術が盛んだ。相手の動きの流れや力を利用して、無駄な力を使う事なく自らの倍以上もある敵を倒すといった、非常に理にかなった武術もある。それを取り入れる事が出きれば、騎士達は今まで以上の戦力となろう。

「今日は、特別講師を招き…」
「団長」
 マイクロトフの言葉を遮って副長のセタが訓練場にかけ込んできた。講師の到着が遅れている。
「いらっしゃったか?」
「それが本来の特別講師、ガンホー殿の都合がつかなくなり、急遽……」
「たーのもーーーーっ!」
 セタの声を掻き消す奇声が入り口から轟く。
 騎士達が一斉にそちらを振り向くと、
「おお!ここがマチルダ騎士団の訓練場か!さすがに広くて設備が良いなぁ!!」
 奇妙な髪型に奇妙な武闘装束を身に纏った男が、訓練場の入り口からマイクロトフの方に向かって大股に歩み寄ってくるところだった。
 その後ろから、「ししょー、それじゃあ道場破りですぅー」と荷物持ちの少女が駆け足でついてくる。
 男は妖しいちょび髭を口元に生やした顔で満面の笑みを作り、マイクロトフの前に立ち止まると右手を差し出した。
「どーも、団長様。武道家ガンホーに代わり、このロンチャンチャンが急遽、本日の特別講師としてお招き預かる事になり申した!宜しく頼む」
 どうにも妖しい男の言動と姿に副長はじめ騎士達は訝しげに目端を細める。一方マイクロトフは、奇抜な登場の仕方に驚いていたものの、
「青騎士団長、マイクロトフと申します。宜しくお願いします」
 すぐに嘘偽りない控えめな笑みをたたえてそれを招き入れる。差し出された手を握り返して握手を交わした。
 騎士達はある意味での団長の偉大さを再認識するのであった。
「さて、早速始めようか!」
 熱血漢なロンチャンチャンの声が高い天井に響き渡る。
 並ぶ青騎士達を見眺めてロンチャンチャンは「よし」と右手拳で左手を叩いた。
「まずは身体慣らしと実力観察も兼ねて、乱どり稽古から行くとしましょう」
「いきなりですか?」
 とセタ。
 武道術にも剣と同じく基本の「型」が存在すると聞いていたのだが。
「私の流派はちと変わってましてな。決まった型などないのです。状況、自分の体格や癖などに合わせ臨機応変自由自在!それこそ最も実用的かつ最強の武術なのです!」
「そうなのです!」
 自信満々のロンチャンチャンに続き、若葉の声も高く天井に響き渡る。
「………」
 「なるほど」と頷きたいのは山々なのだが、ロンチャンチャンの熱弁は、どう贔屓しても青騎士達の耳には白々しく聞こえてしまうらしく、とくに若い騎士達のロンチャンチャンを見る眼は猜疑そのものと言えよう。
 全く気にしていない様子でロンチャンチャンは視線をある方向に向けた。
「ちょうどあそこに、武舞台があるようですな」
 訓練場の角に設置されているのは、演舞や模擬戦や模範戦が行われる為の武部隊。張り替えが自由にきくよう、細長いタイル状の建材が敷き詰められたものだ。
「団長殿」
「はい?」
「まずアナタの部下の中から、体術にこれと見込みがありそうな者を一人、選んで戴けないかな」
「一人?何故…」
「いいからいいから」
 促されてマイクロトフは、前に居並ぶ部下達を見眺める。団長の視線に、部下達は背筋を伸ばす。一通り部下達を見定めた後、マイクロトフが選んだのは、
「…………ラルソン」
「は、はい!!」
 第三部隊に所属する若者、ラルソン・マクガレンだ。
 感激の声と共に更に背筋を伸ばしたラルソンはマイクロトフに手招きされて前方に歩み出る。団長に選ばれた誉れとあって、その足取りは力強い。
 ラルソンを傍らに呼び寄せたマイクロトフがロンチャンチャンに彼の名を紹介する。
「攻め、守りともにバランスの取れた優れた武人だ」と付け加えると、ラルソンの顔面がバラ色に輝くのがセタには見えた。
「な~るほど。では、彼を武舞台へ」
「?……ラルソン」
「はい!」
 不思議に思いながらもマイクロトフはラルソンを武舞台に上がるよう促す。有頂天になっているラルソンは快い返事と共に武舞台へと上がっていった。
「では、こちらは…若葉!」
 不敵な笑みを浮かべてロー・チャンチャンは荷物持ちの少女を呼んだ。
「はい!ししょー!」
 元気一杯な返事と共に若葉と呼ばれた荷物持ちの少女が武舞台に飛び乗った。
「さーて。まずは小手調べにこの二人で乱取対戦してもらいましょう」
「えぇ?」
「ラルソンと…、あの少女がですか?」
 ロンチャンチャンの提案にセタに続きマイクロトフも驚きの声を漏らした。その場に並ぶ騎士達の間からざわめきが起こる。
「ただの荷物持ちと思っておりましたかな?ああ見えても私の一番弟子ですぞ」
 唯一の物好きな、という事は伏せられているが。
「しかし…」
 渋るマイクロトフにロンチャンチャンは「安心しなさい」とマイクロトフの肩を叩く。
「人は見かけによりませんぞ。山椒小粒もピリリと辛い。大は小を兼ねる、柔をもって剛を制すともいうではありませんか」
「……」
 一部間違っているような気もするが、誰もそれをあえて指摘しない。何を言っても止められないだろうからだ。
 結局、ロンチャンチャンの「大丈夫大丈夫」で押しきられ、若葉対ラルソンの乱取り対戦試合が行われる事となった。
「ルールは簡単。武器を使わなければ何でもありです。審判無用。蹴ろうが殴ろうが投げようが、勝てばいーんです」
「はぁ…」
「負けの条件は「まいった」と言うか「舞台から外に出る」か「戦闘不能」となった場合。よろしいかな?」
「はぁ…」
 規則説明はいたって単純明快だが、ロンチャンチャンと若葉以外の人間は誰も皆、喉に異物を引っ掛けたような顔色だ。
「マイクロトフ様……」
 舞台上でやる気満々に軽いステップを踏む若葉を前に、ラルソンはマイクロトフに助けを求める視線を送る。
 気の乗らない表情を浮かべていたマイクロトフだが、渋りつづけるのも失礼に値するとの結論に達する。
「ロンチャンチャン殿がこう仰るのだ。若葉殿が小柄な少女とはいえ気を抜くな。ただし、顔を狙うなよ」
「は、はい…」
 しぶしぶ、ラルソンは頷いて若葉に向き直った。
「さすが、ご理解がお早い」
「ししょー、さすが騎士さん達はジェントルマンですね~!」
 満足そうな師弟のやりとりが耳に痛い。そんな騎士達の気苦労を余所にロンチャンチャンはラルソンに最後のアドバイスを送る。
「型も何もお考えにならず、とにかく若葉をどのように負かすかだけを考えて動くと良いでしょう。闘いに格好などありませんからな」
「…はい」
「よろしくお願いしまーす!」
「よ、宜しくお願いします」
 両者の挨拶が終わり、乱取り対戦がロンチャンチャンの掛け声と共に始められた。


「たーーっ!」
 合図と同時に地を蹴ったのは若葉。
 軽い身のこなしで地を蹴ると、ラルソンの頭上に踵を落とした。
「げ!!」
 突如頭上から落ちてきたそれに、咄嗟にラルソンは横に飛び退いた。
「ほう、あれをよくかわされた」
 二人の様子を見守るマイクロトフの隣でロンチャンチャンがしきりに感心して頷いていた。だがそれから更に続く若葉の連続技にマイクロトフは只管、厳しい実直な視線で武舞台を凝視していた。
「てやぁ!!」
「っわ…!く!」
 防戦一方のラルソン。四方八方からランダムに繰り出される若葉の手足の攻撃を、体全体を使って懸命に直撃を避けているものの、攻撃の糸口が掴めなければ埒があかない。
「どうした!ラルソン!!」
 友人や仲間から声がかかる。
「攻めろ!ラルソン!」
「くっ…!」
 それが分かっているから尚、ラルソンは歯がゆさに苛立ちと焦りを感じた。武舞台の袖では、敬愛する騎士団長がこの戦いを静かに見守っている。その隣では、弟子の若葉の優勢状況に、満足そうに腕を組んでいるロンチャンチャン。

 このままでは…
(俺を推薦してくれた団長に…恥を……っ!!)
 かかせてしまう。

 忠誠心に掻き立てられた騎士の底力が、その時に発揮される。
「スキあり!!」
 若葉の強烈な回し蹴りが飛ぶ。
「危ない若葉!」
「え……」
 空気を抉る若葉の足先を無理な体勢で避けたラルソンが、思いがけぬ角度から反撃の一打を放ってきたのだ。
「ひょあっ!!」
 ロンチャンチャンの声に咄嗟に反応を見せた若葉は半ば尻餅をつきながらラルソンが放った蹴りをかわす。すぐ頭上をラルソンの足が掠っていった。
「ちっ…」
「……っ」
 両者ともに一歩後退し、間を取った。

 わぁぁっ

 場が沸いた。
「いいぞ!ラルソン!」
 騎士達の中から声が上がる。
「若葉、気を抜ける相手ではないぞ!」
 ロンチャンチャンの声も混ざる。
「ししょー!やっぱり騎士さんは凄いです!」
 ラルソンを前に間をあけて構える若葉が、明るい声を発する。
「そうだろうとも!あの角度から反撃するとは見上げた反射神経!!」
 天晴れ、と両手を派手な仕草で叩いてロンチャンチャンは熱血漢に朗々たる声を張る。
 そしてじっと先ほどから無表情で武舞台を見つめているマイクロトフに不敵な笑みを向けて、
「さすがに騎士団長殿がご推薦なさった部下ですな」
 と頷いた。
 武舞台上からラルソンが横目でマイクロトフを見やる。
「その調子だ」
 ようやく力を発揮しだした部下の健闘を誉める言葉を一言かけ、マイクロトフもロンチャンチャンを振り向いた。
 両者は顔をあわせてお互いに、静かに、不敵に、笑いあう。

 中々面白い戦いになりそうだ。


おわり
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2005.10.25.Tue/14:43
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> 昔は、ゲームやマンガの二次創作をしておりました。現在は主にオリジナルネット小説を執筆しています。 得意は「シリアス」「アクション」「サスペンス」です。

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