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  逆拘-ぎゃっこう- 


     
  逆拘<ぎゃっこう> 改 第一話

 

 

はたけカカシの首をとれ。

片岡五十万石に所属する暗部の忍達に辞令が下った。

理由はただ一つ。

かつてはたけカカシと一戦を交えた片岡の忍が、こともあろうに片岡に代代伝わる秘術を使った際、はたけカカシに覚えられ、しかも習得されてしまったからだ。

いわゆる、「コピー忍者」と音に高い、はたけカカシの能力故の禁事態だった。

「生かしておくわけにはいかん・・・あの秘術を奴に使われては・・・いずれ片岡は破滅だ」

失態を犯した忍の処分を決めた後、片岡領主十二代目は、ただちに暗部精鋭部隊にはたけカカシ暗殺の令を下した。

褒章は、思うがまま。

それが、忍らの勢威を増幅させる。

無論それだけではなく、あのコピー忍者をし止めたとあれば、忍の世界においても自らの名を知らしめる事が出来るのだ。

狙うはただ一つ。

はたけカカシの首なり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イルカ先生ー」

アカデミーの廊下で、イルカは聞き慣れた声に呼びとめられた。

「ナルト」とその名を呼ぶと、黄色い頭の少年は、表情を輝かせてイルカの足元に飛びついた。

「どうしたんだ、今日は任務は?」

この時間、通常ならば新人下忍達は担当のカカシ先生と任務に出ているはずなのだが。

「カカシ先生、急に入った任務で、今日は自習なんだってばよ」

「そうか。大変だな、あの先生も」

一度肩をすくめて、他人事の様に笑うイルカ先生に、ナルトはひじをトントンとあてて「にしし」と笑う。

「イルカ先生だって、昔は任務でいろいろ活躍したり、大変だったんだろ?」

「昔?」

「先生になる前だってば」

「ああ・・・昔ね・・・」

どこからそんな情報を仕入れてくるのか、最近ナルトはやけにイルカの過去にこだわり、色々と探ってくる。

昔、特工隊に所属していた事、どんな任務を請け負って来たか・・・など。

まあ、だいたい、情報源は予想がつく。

「誰に何を吹き込まれたんだ?お前は」

イルカのつっこみに、ナルトが頬を膨らます。

「だってばよ0、もったいないじゃんイルカ先生さー」

「何が」とイルカが返すと、ナルトはすかさずイルカにつっかかる。

「ミズキ先生事件の事カカシ先生に話したら、オレが怒られたってばよ。」

「カカシ先生が?何で」

「イルカ先生が逃げろって言った時にオレが逃げないから、イルカ先生が怪我する事になるんだって・・・」

「・・・・・」

 先日、任務報告の受付所で知り合ったばかりの彼が何故・・・・・・。もっとも、イルカはカカシを聞き知っていたのは言うまでもない。里でも音に聞こえる、写輪眼の上忍。

 イルカが一瞬見せた戸惑いの表情を、ナルトは見逃さなかった。

「イルカ先生、本当は何だかすごい特技があるんだろ?だってカカシ先生が知ってるんだから。だけど、学校の人間には誰にも知られないようにしてるって。でも何だって死にそうになってまで隠そうとするんだってばよ・・・」

 苦笑を漏らして、イルカはその場に中腰になる。ナルトと目線が合った。

「隠そうも何も、本当に弱いんだからしょうがないだろう」

 ごまかし笑いを浮かべるイルカに、ナルトはますます頬を膨らませてスネるように言う。

「オレってばわかんないよ。何でせっかくある力を隠すのかさ。

オレだったら、里の奴らにオレを認めさせる為にがんばるのによ」

 下唇を突きだしてすねるナルトの頭をくしゃくしゃと撫でる。

「・・・ゴメンな、ナルト・・・」

 返って来たのは、切ないその一言だけだった。

 

 

 

「人には向き不向き、それに事情ってものがあるんだ。大人ともなればなおさらだ。この世間知らず」

 相変わらず一言多いサスケにムッと眉をしかめたものの、

 納得せざるをえなく、ナルトは振り上げようとした拳を握って抑え込んだ。

「お、殴ってこないのか。ちょっとは成長したようだな、ドべ」

 顔をひん曲げて歯軋りするナルトを横目に、サクラは隣で枝毛探しをしている。

 やっと休講が明けて久々の任務かと思えば、やはりカカシ先生は遅刻。

 下忍三人は、待ち合わせ場所である訓練場で待ちくたびれていた。

 他にも、アカデミーの屋外実習に来ている子供達や先生の姿がちらほら、遠目に見える。

 ナルトとサスケは、組み手なんだか喧嘩なんだか分からない取っ組み合いや口げんか。

 当然、サスケの味方であるサクラはそれを横目でヤジを飛ばしつつ、サスケを応援したり、枝毛を探したり。

 そんな下忍三人組の前に、のこのこと上忍が現れる。

「やあ諸君、おはよう。今日は青春の迷い道にはまってな」

「もうその嘘飽きた」

サクラが速攻で言い返すものの、カカシは右目を細めて笑った表情を崩さない。

「今日は何の任務だ?」

 毎回の下らないやりとりに辟易していたサスケがぼそりと切り出す。すると、「任務任務」とナルトの表情が明るくなった。

「久々に、里外での仕事だ」

「うぉっ!やったってば!」

飛び跳ねて喜ぶナルト。サスケもまんざらでもなさそうに口元に微かな笑みを浮かべていた。

「で、どんな任務だってば!」







「こんな事じゃないかと思ってたのよねぇ・・・・・・」

「国外のCランク任務っていうから・・・」

「・・・・・・・・・」

里を出て一時間後、森の草むらで子供三人の愚痴が飛び交う。

草むしりのような薬草探しをさせられているのだ。

木の葉では手に入らない、希少価値の高い薬草だという。

土と砂と草にまみれながら、薄暗い森の中で三人は、はいずり回るようにして薬草を探しては摘んでいた。

「何を言うか。里を一歩出れば、いつ敵が襲ってくるかわからないんだぞ。ましてやこんな森の中。立派な高度任務じゃないか」

と、当の上忍は愛読書片手に木の上でご休憩。

「里外へ逃げた犬を探しに行った時も、同じ事言ってたじゃないの」

細かい所まで記憶力の良いサクラが、ぶつくさと突っ込む。

「とにかく、指定された薬草を、指定されただけ集めるんだぞ。それまで帰れんからな」

「うへっ・・・」



 ちょうどそのころ、

「防腐薬を手渡すのを忘れていました・・・」

任務管理事務所で、そんな会話がされていた。

「何?」

第七班が摘んでくる筈の薬草の指定が、抜けていたのだ。それだけなら、伝書鳥を用いて通達すれば良いのだが、今回は不運な事に、任務に用いる特殊薬品を、手渡し忘れたのである。

この特殊薬品とは防腐薬の一種で、摘むと短時間で枯れてしまうという貴重で特殊な薬草を保存するためのものだ。

単純な、手続き不備である。

「場所は、火の国と甍の里との国境付近の森か・・・ここからだと一刻近くかかる・・・」

「薬は依頼人から手渡された特殊なものですから、宅配鳥に託すわけにもいきませんしね」

「この薬草摘みだけ、別件の任務として別の班に回しますか?」

「それこそ面倒だ・・・それに時間が無い」

多くの任務を各国から請け負う都合上、こうした不備は稀ではない。

こういう時に、損なくじを引いてしまうのが、いわゆる「お人好し」である。

「いいですよ」

と、二つ返事で頷いたのは、中忍のイルカ。

試験期間中の今、時間に余裕が生まれる教師が多い。

常日頃、空いた時間を利用して受付業務に出ているイルカも、今日は午前中から事務所にて仕事を請け負っていたのである。そこに舞い込んできたのが、書類不備から来た、ちょっとした「任務」。

火の国と甍の里との国境付近の森、「不知火の森」で薬草摘みをしている第七班に、訂正済みの任務書類と、特殊薬品を届ける事。里外とはいえ、日帰りが可能な距離だ。



 薬を受け取ったイルカは、軽い身支度の後すぐに、里を出立した。

 

 

 

書類と薬の入った封筒を小脇に、イルカは木漏れ日が揺れる森の中を歩く。

ちょっとした、散歩だ。

たまにこんな風に森に出向く機会があると、新鮮な気持ちになる。

緑の若葉を透かして届く柔らかい光の中を、青い香りを楽しみなが歩く。

足場の悪い森も、こんな時にはまったく苦にならない。

 

以前は・・昔は・・暗く、湿った、足場の悪い森は最悪の戦場でしかなかったのだが。

 

降りしきる雨

鼓膜をつんざくような雷鳴

全身を包む冷気

そして湯気

三日三晩・・

寝ずに銀髪の同僚と敵を待ち伏せていた時を思い出す。

身じろぎもできず、

音を立てる事も許されず、

仕掛けたトラップのそばで、ただひたすら気配を消して、

忍ぶ。

 

そんな時期もあった。

「昔」の話だ。

まあしかし、こんなに穏やかな森での任務なら、身体を冷やして震えている事もなかろう。

イルカは、半ば遠足気分で、この先で仕事をしているであろう、元教え子と上忍の元に向かう。

ここを抜ければ、「不知火」の森に入る。

軍事体制国家である「火の国」と隣接する森。

いささか、下忍が任務を行うには物々しい場所であるが、現在は戦も行われていない。

 

不知火の森は、緑が濃い。

火の国で起こった大規模な戦により、この森で多くの戦死者が出たという。

戦後は、大規模な残党狩りも行われ、この森は処刑場でもあったとも聞く。

森の葉が濃いのは、無念を残して死んだ者達の血を吸ったからだ・・・という逸話がある。

一方、その独特な自然環境ゆえに、希少価値の高い植物類が多く生息している事でも、有名だ。

不天候時には霧が濃く立ちこめる。戦時には、多くの松明が鬼火のように浮かび上がる。森の名は、そこからとられた通称だ。





「・・・?」

 微かな気配に気づき、森に入る寸前で足を止めた。

 埃のような、ごく、ごく微量な気配。

 今しがた通り抜けてきた森から流れてくる風が、運んできた気配だ。

 善なのか、悪なのか、その嗅ぎ分けもできぬほどの・・・微量な。

「・・・ナルトか?」

ぼそっと小声で、どこへとなく、イルカは声をかけてみる。

返事はない。

イルカの声はそよぐ風にかきけされてしまう。

それに重なり、小鳥のさえずり。

 

「・・・っ!」

 

甘い香り。

 

イルカはとっさに手で口と鼻を覆った。

これは・・・

遠い記憶を探りだす。

いつだったか・・・

嗅いだことのある匂い。

 

甘い、

甘い・・・

 

イルカの手から、封筒が落ちた。

続いて、それに折り重なるように、

 

「しまっ・・・・・」

イルカの身体が、崩れるように、地に伏した。

 

 

 

 

「・・・?」

 微かな風の変化を感じ、カカシは顔をあげた。

 カカシは獣道をせわしなく走るアリをずっと目で追いかけていた。

そのアリも、急に方向を変えて土の中に潜っていってしまう。

カカシのすぐ側では、薬草摘みを終えて、子供達が少し遅い昼食を食べている。

風を探って、カカシは立ち上がった。

「どうしたの?」

ご飯粒を頬につけたまま、サクラが顔を上げた。

「すぐ戻る」

カカシはそう言い残すと、里方向へと歩き出した。

濃い緑の枝木をくぐり、背を若干丸めて低くしながら、気配を探って歩く。

風が吹くたび、砂利を踏むたびに、微少な気配はかき消えてしまう。

善悪の区別も付かない、「違和感」という名の気配。

「・・・・・・」

カカシはふと、足を止める。

何だろう・・

また、「違和感」。

進行方向を、やや西に向ける。

 気配をそこから感じたわけではない。

 ただ、ただなんとなく・・・

 何かを感じたのだ。

 背丈ほどある草木をかきわけ、やっとの思いで別の獣道と交差する明原に出た。



そこは、不知火の森に続く、炎の森の入り口。



「・・・?」

 そこに見えるのは、

 無人の森の中にはふさわしくない光景。

 草に見え隠れするその何かは、地面に倒れた人影らしかった。

 色からすると、カカシが身につけている木の葉の忍びが着用する制服と同じだ。

「・・・・?」

 一歩一歩近づくにつれ、カカシの表情が変わっていく。

 まず黒髪が見える。

そして、それが後頭部で束ねられているのが分かり・・

「い、イルカ先生!?」

 草むらに俯せに倒れる人影に、カカシはつい声をあげた。

 肩を抱き起こすと、確かにそれは見知った顔。

同じ生徒を担当しているという共通点を持つ教師仲間。

もとい、カカシはその前にもその存在を聞き知っていた・・・

イルカだった。

 抱き起こした体を引き寄せる。

 外傷は無いようだ。

 病気・・というわけでもなさそうだった。

 だが完全に気を失ったイルカの首は、力無く垂れる。

 糸の切れた人形のように、カカシの両腕の中でぐったりと横たわるその様子は、

 まるで死んでいるようで、ただ事とは思えなかった。



gyakkou1-2.jpg


 

 

「・・・・?」

 

 すぐ側に、茶色い封筒が落ちているのに気がつく。

 拾い上げて中身を確認すると、

「書類と・・・薬・・・?」

 ざっと斜めに書類に眼を通す。

「まさかこれを届けようと思って・・・」

 何かが起こったというのだろうか?

「・・・・・・」

 指笛を吹いて子供達を呼び寄せようとして、カカシは手をとめた。

息を止める。

耳元をかすめていく風を聞く。

気配を探った。

先ほどまで微量に感じていた気配が、消えていた。

ここで大音をたてるのは、危険と判断し、カカシはいったん子供達の元に戻ることにした。

 封筒を懐に仕舞い、カカシはイルカを背中に背負う。

 意外に重い。

 そりゃそうだ。

 相手は大の男だ。生徒を抱えるのとは違う。

 イルカを背負ったまま、カカシはなるべく足場の良い獣道を選び歩く。

 背中のイルカは、全体中をカカシの背中に預けたまま動く気配がない。

 首筋に、息は感じられる。背中に、心臓の鼓動は響いてくる。

 生きているのは確かだが。

 

「戻ったぞ」

 その声に、その場にいた三人の子供達が振り返る。

「あ、おかえ・・・・・・」

 奥からサクラ、サスケ、そしてナルト。

「おい、その背中に背負ってるのは?」

 すぐに、サスケがカカシの背中を指さす。

「イルカ先生!」

 手にしていた水筒を放り出して、ナルトが立ち上がる。「ええ?」とサクラも驚動の声を上げた。

「ど、どどどうしたんだってばよ!なんでイルカ先生・・え?」

 混乱するナルトをよそに、カカシは背中からイルカを下ろすと、岩に背を預けて地面に座らせた。

「先生、イルカ先生、どうしたの?」

 サクラが背後から心配そうにのぞき込んできた。

「俺にもよくわからん」

 カカシは大きくため息をつき、イルカの傍らに膝をついた。

 下から顔をのぞき込んで顔色を伺い、手をとって脈を診る。

「どこも異状はないんだがねぇ・・・」

「いくらなんでもイルカ先生、変な場所で突然寝ちゃうような癖はないってばよ」

ナルトも同じくしゃがみこんで、ぴくりとも動かないイルカの顔を伺う。

「何でこんな所にイルカ先生が?」

「俺達への届け物の途中だったらしい」

サクラの問いに、懐から書類を取り出して手渡す。

書類に目を通したサクラは「貧乏くじをひいたわけね」と呟く。

ご名答。

おそらくそうだろうな、とカカシも呟く。

「薬草摘みを続けるわけにはいかんな・・・。いったん里に戻るか・・・」

 カカシは立ち上がり、ぐっと一つ伸びをする。

「任務の続きは、明日にしよう」

「休日出勤だけど・・・仕方無いわね。先生が心配だし」

本当ならいつもここで「え0?」と眉を顰めて抗議するのがサクラなのだが、さすがに大の男が意識をなくして倒れるという事態を重く見ているようだ。

「じゃあ、帰り支度を・・・」



じゃりっ・・

「?」

 

 砂を踏む音がして、四人がほぼ同時に音のした方を振り返った。

「あ、先生・・・」

 岩を背にして眠っていたイルカが、片膝をたてて、立ち上がろうとしている姿が目に映る。

 ナルトが駆け寄る。

「先生ってば、どうしてたんだよー」

 だがイルカは、無言で俯いたまま、足取りがあまりおぼつかない様子だ。

 両手を岩につき、なんとか体重を支えている、という感じだ。

「無理しないほうがいいなじゃないですか?原因不明ですから」

 と、ナルトの背後からカカシが歩み寄り、イルカの腕をとろうと手を伸ばした。

 

 だがそれより一瞬早く、

「!」

 イルカがカカシの手をとった。

 ふらつく体をさせるように、カカシの両腕を掴む。

 そして、徐々に上体を起こしていく。

「・・・イルカ先生・・・・?」

 依然様子がおかしいイルカに、カカシが訝しがり、名前を呼ぶ。

 その直後、

 イルカの手がカカシの首の後ろに回った。

 

 そして引き寄せて・・

「!」

 

 唇を寄せた。

 

 

「!?」

 

 

 カカシの背後に立っていたサクラとサスケは、何が起こったのか理解できずにいたが、

 二人の様子を真横から見ていたナルトの表情に、何かをくみ取ったらしく、口を「え」の字に開けた。

 軽い口づけのあと、いったん唇が離れた。

 

「い、イルカ・・・先・・・」

 

 だがまた、イルカの唇がカカシの言葉を塞ぐ。

 吐息がかかる。

 カカシの首に回されたイルカの手に、力が入る。

 

 口づけられたイルカの唇の端が、

 

 

 わずかに笑みの形を作った。

 

gyakkou1.jpg


 

「!」

 

 

 腕をつっぱり、カカシはイルカの体を突き放した。

 イルカの体が、二、三歩よろけて後退する。

 背中を丸め、うつむき加減のため、ナルト達からも表情が分からない。

 

「イルカせ・・・んせい・・・?」

 

 そして、ゆっくりと背中を起こし、顔を上げたイルカの表情は、

 

 

「う・・・寒・・・・」

 背筋に悪寒を感じて、サクラは身震いした。

 うなじの毛が、わずかに静電気で逆立つ感覚を、サスケは覚えた。

 ナルトは、服の中で、首筋から腹部にかけて汗が流れ落ちるのを感じた。

 

 

「・・・イルカ先生・・・・」

 下忍三人を背後にかばうようにして、カカシは身構えた。

 顔を上げたイルカの表情は

 



 

ただそれだけだった。

 

いつもの照れ笑い、

いつもの困惑した顔、

いつもの怒鳴る顔、

そのどれでもない、「無」の顔。

 

 

その目は、まるで敵、または獣が獲物を見据える眼。

ただ一点。

 

カカシの瞳を、突き刺すように見据えていた。

ゆらりと揺れる、陽炎のように、イルカは体を起こすと、

顔の前で腕を構える。

戦闘態勢の構えだ。

 

「・・・・下がってろ」

 背後の下忍三人にカカシは指示を出す。

 

 口を出す問題ではないと判断したサスケは、それにすぐ頷いた。

「え、でも、何、だって、イルカ先生・・・え、ちょっ・・」

 混乱気味のナルトの首根っこを、サスケが掴んで引きずる。

 サクラは、ただサスケの後についていく。

 イルカの眼は、だが変わらずただカカシの眼一点を見据えていた。

 下忍三人は全く視野に入っていないようだ。

「どうしたんだってばよー!先生ーっ!」

「黙ってろ!」

 カカシが覆面の下から、厳しい声を出す。

 今まで聞いた事のないカカシの厳しい口調に、さすがのナルトも一瞬、言葉を詰まらせた。

 

「ぬかったな・・・」

 カカシも、形ばかりに構える。

 イルカから、殺気は感じられない。

 邪気も感じられない。

「気」を何も感じない。

 これは・・・

 

術を掛けられている。



記憶操作、洗脳、意識操作系の術である事が明かだ。



気がつかなかった・・。

 

しかし、何者に・・・?

 

 

 

 



と思案する間もなく、

 

「っ!」

 

 目の前からイルカが飛びかかってきた。

 一瞬、思案に気を取られていたカカシは顔の前で交差させ、防御をとった。

 だがその防御をうち砕く勢いで、イルカの一打が打ち込まれた。

「ぐっ・・」

 骨が髄まで痺れる感覚。

 力で押され、カカシは思わず一歩、後退する。

 だがイルカはそのまま体を翻すと、素早くカカシの背後に身を移した。

(早い!)

 サスケが眼を細める。

 カカシが眼を見開く。

 ほぼ同時に、イルカの肘が、カカシの脇腹を掠った。

「・・・!」

 戦闘服が、裂けた。

 まさか懐に飛び込まれるとは・・・。

 寸手でかわし、カカシはイルカから距離をとって地面に着地する。

 だが次の瞬間には、頭上から踵が落ちてきた。

「冗談・・・っ!」

 それを何とか両手の平で受け止めると、イルカの足首を掴む。

 だがそれは実体ではなく・・

「くっ!」

 一瞬にふたたび懐に潜り込んできた影に、カカシはとっさに印を切った。

 風の幕がカカシを守るように引かれ、

「ぅあっ!」

 イルカの体がバウンドするように弾かれた。

 だが、イルカは巧みに体を回転させて着地する。そして、すぐに立ち上がり、構えた。

 

 お互い、再び距離をとる。

 

「・・・・す、すげぇ・・・・」

 

 ナルトが口走る。

 いつだったか、初任務の日に見たカカシの戦い。

 その日以来、

 ある意味、その日以上の衝撃が、

 下忍三人の間に走った。

「そういう問題じゃない気がするんだけど・・・」

 サクラが呟く。

「色々な問題がありすぎるわよ・・・」

 サスケが、ちらりとサクラを振り向いた。

 だがすぐに視線を、向かい合う二人の戦士に戻す。

 

(あの野郎が不利だな・・・)

 複雑な表情を眉間にしわに現すカカシの様子に、サスケは気がつく。

 そして一方の、不気味なほどに「無」であるイルカを見やる。

 カカシは、イルカにかかる呪縛を解く術を模索している。また、同僚教師相手に本気を出せるわけがない。

 そして一方のイルカは、殺気を発しもせず、何のためらいも見せず、カカシを殺そうと向かってくる。

だが・・

 

 

(本気を出さなきゃ俺が殺られるな・・・)

 鋭い視線をぶつけてくるイルカと視線を合わせながら、カカシは思案していた。

 

何も迷いが無い分・・・

 

今まで以上に手強い。

 

しかも・・・・

 

「何奴か!!」

 カカシが、空(くう)に向かって怒声を上げる。

 返ってくるのは、木霊だけだ。

「?」

 下忍三人はただもう黙って様子を見守るしかなかった。

「卑劣なり!さほどに俺に勝つ自信がないのか!」

 アカデミーでは決して聞かない、厳しく、強い声。

 それは紛れもなく、上忍としてのはたけカカシだった。

 

 

『そういう事は、この戦いに勝ってから言うんだな・・・』

 

 

「・・・!?」

 

 聞き慣れた声が、カカシに向かって敵意に満ちた言葉を吐いた。

 だがその口調、喋り方は、明らかにいつもの「あの人の声」ではなく・・。

 

 下忍達も、思わず視線をその方向に向ける。

 黒髪、顔の傷。忍び装束。

 見慣れた中忍の、聞き慣れた声。

 

 その声が、

 

『貴様を殺す・・それが叶えば道理など二の次だ・・・』

 

 殺気に満ちた雑言を発する。

 

 いつもは優しく微笑む為の唇が、

 今は残酷な、冷酷な笑みを浮かべている。

 

 

『殺す』

 

その言葉が、

 

 

カカシの脳裏を何度もめぐっていた。

 

 

 

 続




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2005.10.25.Tue/14:38
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北野ふゆ子

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> 昔は、ゲームやマンガの二次創作をしておりました。現在は主にオリジナルネット小説を執筆しています。 得意は「シリアス」「アクション」「サスペンス」です。

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