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  職権濫用のススメ 


職権乱用の薦め

 

 

 

ある平日の昼過ぎ。

イルカは自宅にいた。今日はアカデミー創立記念日のために、休みなのだ。

だが、イルカはどこに出かけるでもなく、朝から成績表の整理やテストの採点などの仕事で、時間を潰していた。

そう締め切りに切羽詰まっている訳でもないのだが・・・どうも一人身だと仕事以外に時間を潰す術がないらしい。

 

コンコン・・

 

「・・・・?。どちら様ですか?」

その家に持ちこんでいた仕事もほぼ片付けてしまい、イルカが手持ち無沙汰になったところで、唐突に、ドアをノックする音が響いた。

いぶかしげに、イルカは眉を潜めて玄関に向かう。

イルカの家には滅多に人が訪ねてくる事がなく、しかもこんな平日の昼間ならなおさらの事。

ナルトも下忍になってからは、イルカ宅に通う回数を減らしており、それはそれでイルカにとっては喜ばしい事なのだが。確か、明日からまた任務だとか言っていた。

「どちら様?」

もう一度、イルカはドアの向こうに声をかける。すると、聞き慣れた声が返ってきた。

「こんにちは、俺です」

低く、少し間伸びした男の声。その持ち主は、イルカには分かりきっていた。

「あ、はい」

ドアを開けると、予想通りの人物がそこにいる。

はたけカカシ。

現在、下忍となったナルトを受け持つ木の葉随一の上忍である。

 

「嬉しいですねぇ」

ドアを開けるなり、カカシは唯一露出した眼を細めて笑った。

「何がですか」

彼を玄関に招きいれ、ドアを閉めながらイルカは尋ねる。

「名乗らなくても俺だと分かってくれましたね」

先に居間に続く廊下を歩くカカシが、後ろからついてくるイルカに肩越しに振りかえり、また笑う。

「・・・他にいませんからね、こんなところに来る人は。ナルトとあなた以外に」

そっけなく答えたつもりなのだが、それでもカカシは眼を細めたまま。

後ろからイルカがカカシを居間に誘導する。

居間の中央に置かれたちゃぶ台には、数冊の本や巻物が置かれていた。

それらをカカシが、「ありがたいですね」とパラパラと捲りながら眼を通す。

すべて、トラップに関する書物だ。

「それにしても、トラップ解除の任務なんて珍しいですね。それもあの子達に割り当てられるなんて」

居間から続く台所で茶を煎れる為の湯を沸かしながら、イルカが言う。

本に眼を通しながら、カカシは「そうなんですよ。私も久しぶりでしてね」と肯き、茶を盆に乗せて戻ってきたイルカを見上げて、言葉を加える。

「だから、あなたに教えてもらおうと思って」

 

教職に就く以前のイルカを知る者は、アカデミーには少ない。

トラップのエキスパートとして、ほんの短期間だが、特殊部隊に所属していた頃。

「木の葉の罠師」または「技巧師」と呼称され、カカシもそれは聞き及んでいたものの、

まさかナルトの元担任がそうである事を火影から聞かされた時は耳を疑ったものだった。

「いやあ、さすがですねぇ・・。こんな貴重書までお持ちだなんて。これ、書物館にいっても持ちだし厳禁とされている代物じゃないですか」

ハードカバーの古めかしい本を捲りながら、カカシは覆面の下からため息。

古代から伝わる罠や武器の作成法や応用方を記した書物だ。

「ああ、それは火影さまから写しをいただいたんです。現役時代に」

茶をカカシに薦めて、「今じゃ宝の持ちぐされですね」とイルカは苦笑する。

「・・・・・」

茶菓子をとりに台所に戻っていくイルカの後ろ姿を見やる。

一忍の長が、里にとっての貴重書を写し渡せるほどに信頼を置かれている忍・・・。

改めて、カカシは忍として、イルカに複雑な感情を抱かざるを得ない。

難しい顔をして書物に視線を落とすカカシに、茶菓子を運んできたイルカが「始めましょうか」と微笑んだ。

 

 

「下調べをしてきた報告員の報告書によると、トラップの設置場所は国境にある街道へと続く林道の一つだそうです」

ちゃぶ台に隣り合って座布団を引き、肩が触れる程の距離に並んで二人は座る。

カカシから差しだされる資料に、イルカが厳しい視線を落とす。

それを隣から覗きこむように、カカシも資料を指差しながら、報告書を解説する。

「・・・特定人物を狙った物では、少なくともなさそうですね・・。あと、そう規模の大きなトラップでもないでしょう」

「だとすると・・・」とイルカは言葉をつなげて書物の一つを手にとると、ページを捲り始める。

「どうしてですか?」

カカシが疑問符を投げかける。

それにイルカは、一旦本から目を離して答える。

人の目に直接語りかける、アカデミーの授業でも見せる、イルカの癖だ。

「ここら一帯の林は、そう深いものではないですから、林道に沿って歩く人はそういないんです。

近道の為に逸れて歩く人が多い。だから、こんな林道の一つ、しかも真中に仕掛けても、特定の誰かを狙うのは非効率的なんです。

あと、仕掛けられた道の幅と、その周辺を取り囲む木の並び方を見ると・・・

あまり大掛かりな空中ものと、あと地中に仕掛ける物は出来ませんね・・・。

地面下を掘って何かをしかけるにも・・・この辺りの土質からして、土を掘ると色が変わるから、すぐにバレるんですよ。

あ、でも悪戯目的なら、わざと分かりやすいように仕掛けるかもしれませんね」

言い終えると、またイルカは本に視線を戻す。何かを探している。

「そちらを読みながら聞いてて下さい」と前置きして、カカシが報告書の続きを読む。

「おっしゃる通り、所々土が変色していたようですよ」

その写真をイルカの前に置くと、イルカがそれを手にとった。口元に手を当て、ぶつぶつと何かを呟く。

「土の変色が1・・・2・・・・5か所ですか・・・なら、五ぼう星陣か、五竜陣か・・・・」

イルカは写真とにらみ合う。しばしの無音が流れる。

「おそらく、五竜陣系統のトラップだと思います」

決断したように顔を上げ、イルカがカカシを振りかえる。手元の本を手繰り寄せ、頁を捲る。

「五竜陣」と書かれた項目を、カカシの前に広げる。

「いわゆる連動式のトラップで、1、2、3・・・4、5、と、

この順番でトグロを捲くようにしてトラップが発動していきます。

そして、5番目の発動と同時に、最後の大きな仕掛けが動く・・というタイプですね」

「ふんふん」

カカシはひたすら、始終、そう相槌を打ちながら肯く。

 

イルカの「講弁」は、静かに、淡々と続いた。

だが不思議と退屈しない。

それは、言葉の使い方や、説明の巧みさも一因だが・・・。

真剣な瞳、通った鼻筋の端正な横顔は、いつまで見つめていても飽きないのだ。

 

「でも・・・・妙だなぁ・・・」

「え、あ、はい、何がですか?」

説明を切り、眉間に皺を寄せるイルカの様子に、カカシは我に返る。

「五竜陣のトラップは、たいてい爆発物や火機を使うものなんですが・・・。この地面のふくらみ具合や、この地形から言って・・・確実に獲物をしとめるつもりなら」

「爆発物や火機は使っていないと・・?」

イルカが肯く。

「ガス系統・・・ただのいたずらなら、あるいはバクチクや小さな爆発物も使っているかもしれませんが・・・」

「わかりました。色々な可能性を考えて、十分用心すれば良いわけですよ」

目をほそめてうなずくカカシに、イルカが瞳に影を落とす。

「そんな気楽な事おっしゃいますけど・・・気をつけて下さいよ?」

カカシが飲み終えた湯のみと自分のゆのみを盆に並べなる。

急によそよそしくなったイルカに、横からカカシが顔を覗きこむ。

「ナルト達には、危害が及ばないようにしますから」

「まあ、・・・・・それもありますけど・・・」

本を重ね、書類をまとめながら、イルカは少し怒ったような表情。

カカシが何も言わずにその様子を眺めていると、イルカが本を抱えて立ち上がろうとする。

その手を、

カカシが引く。

「・・・わ・・」

中腰だったイルカは、バランスを崩して片膝をついた。

カカシは、イルカの肩を引き寄せる。

そして、戸惑いを浮かべるイルカの顔に、自分の顔を寄せ・・・

ようとしたところで、二人の顔の間に本が差しこまれた。

「ぶっ・・・」

正面からハードカバーの本に顔をぶつけてしまう。

とっさに、イルカが手に持っていた本で遮ったのだ。

「任務を控えている時に、何を考えてるんですか、あんたは」

「つれないですねぇ・・・」

鼻の頭をさすりながらカカシは、呆れ顔で盆を運んで台所へ消えていくイルカの背中を見送った。

また、上手くかわされてしまった・・。

「つれないも何も・・。そんなの任務が終ってから、意中の女性とでもなされば良いでしょうに」

「いませんよそんなの」

「だからって俺じゃあ代わりになりませんよ」

「代わり・・・・」

カカシはがっくりと肩を落とす。

どうも、本気にしてもらえない。

忍の世界で、男同士、女同士は特に珍しくもない。

だからなおさら、イルカの目には、カカシの行動が「気まぐれな遊び」に映ってしまうのだろう。

「そんな事より、覚える事は覚えてから、帰って下さいよ」

イルカが再び、台所から盆を持って帰って来る。

お茶と茶菓子のおかわりだった。

それに加え、軽い軽食までついていた。

まだ、ここにいても良いという事だろう。

「・・・・・・」

こういうところが、

この人の良いところでもあり、悪いところでもある。

 

 

 

 

 

 

翌日。

カカシは、イルカのアドバイス通りに、トラップの解除にかかった。

「ナルトはそっち、サクラはあっち。で、サスケはこれを持ってろ」

トラップの起爆装置として四方に張り巡らせれていた縄を、メモにしたがって一本ずつ切断していく。

そして、最後の一本。

「よし。じゃあ、せーので、火をつけるんだぞ」

最後の縄を切断すれば、最後の大仕掛けだけが起動する。

爆発と分かっていれば、遠くからくないでも投げて切断し、爆発をやり過ごせば良いのだが、

ガスの可能性もある、というイルカのアドバイスによると、やり過ごす訳にはいかない。

風向きからして、ガスは確実に里に届いてしまう。

五つ目が仕掛けてあると思われる土の盛り上がりの周辺に、筒を差して固定剤を流し込む。

そして、起爆ロープを切断すると同時に、そこに火を放てば、ガスは無効化して蒸発する。

子供達は手に松明を持っている。着火場所には、すでに油が撒かれていた。

「じゃあ、いくぞ」

「はい」

「せーの」

カカシがロープを切る。

ほぼ同時に、

「それ!」

火が放たれた。

そして同時に、四人はその場から飛びずさる。

ジュッ という音が地化から沸きあがるように聞こえてくる。

そして、白い煙が大量に、まっすぐに、空に昇っていった。

ガスが浄化されたのだ。

「イルカ先生の言った通りだったね」

サクラが、高く空を見上げる。

「任務、ま~た簡単に終っちゃったってばよ」

イルカ先生のおかげ、という点で嬉しい反面、また何も起こらずに任務が簡単に終了してしまう事に、ナルトは不満なようだった。

「簡単に、無事に終わるに越したことはないのよ」

と、説教をするようにサクラ。

やれやれ、とカカシは肩をすくめ、残りの四つの仕掛けの解除に取りかかろうと、トラップに近づく。

煙はすっかり引き、火を放った跡が、焦げてくすぶっていた。

起爆装置はすべて解除してあるので、残り四つの仕掛けを解くのは簡単だった。

変色した土をほれば、そこに、幾重にも和紙を重ねて固定された包みのようなものが出てくる。

掘りだした一つを、カカシが拾い上げる。土にまみれたそれは、以外に重い。

「これも、ガスが仕掛けられているのかしら」

「・・・だろうな。連動式っていってたから」

 

しかし、疑問が残る。

なぜ、「重い」のだろう・・・。

 

「・・・・・?」

どこからか、

嗅ぎなれない異臭が、鼻孔を通りすぎていった。

たったいま、浄化した煙の匂いに混じり、微かに漂うこれは・・・。

カカシが眉をしかめた。

子供達は、さすがにこの微かな匂いには気づいていないらしい。

「じゃあ、残りのも掘りだすわよ」

とサクラ、ナルト、サスケはくないを片手に立ちあがった。

「ちょっと待て」とカカシが言いかけた瞬間、

「!」

「先生!」

 

包みが、爆発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イルカ先生ーっ」

微かに遠くで、その声がしたとき、イルカは一瞬、空耳かと思った。

黒板にチョークで文字を書き綴る手を一瞬止めて、首をかしげて、また再び手を動かす。

背後では、生徒たちが真剣に黒板をノートに書き写している。

(あいつの声が聞こえる訳がないか・・・)

今この時間、あの黄色い頭の元教え子は、まさに任務に出向いている頃だ。あの上忍と。

「イルカ先生ーっ!」

「・・・・!?」

だが二回目、さらに声が近づいて聞こえた時には、さすがにイルカはチョークを置いて、教室の窓に向かい、外をうかがう。

生徒たちが何事かとざわめく。

「ナルト・・・」

窓の外、校門付近にみなれた黄色い頭、桃色の服、白黒の服、そして、銀髪・・。

見ると、ナルトとサスケが、カカシに肩を貸して歩いてくる姿があった。

「自習にします!」

教室の生徒たちに向けてそう言い残すとイルカは、窓を開けて二階の教室から校庭に飛び降りた。

その後を見送るように、生徒たちが一斉に窓に掛けより、そこから何事かと外をながめる。

「あ、イルカ先生!」

サクラがイルカにかけよる。イルカの袖を引っ張って導く。

ナルトとサスケに肩を借りて歩くカカシは、ぐったりとうなだれていた。

カカシの元に駆けよってイルカは、カカシの表情を確認しようと、顔を覗きこむ。

「どうしたんですか・・・・?」

そのとき、強い匂いがイルカの嗅覚を刺激した。

「・・・・・この匂いは・・・・」

有機質的な、薬品の匂い・・・。

「何があったんだ、ナルト、サスケ」

カカシをゆっくりと地面に座らせ、背中と肩をイルカが支える。

「トラップを解除してて・・・」

「失敗したのか・・・?それとも・・・俺のアドバイスに間違いが・・・・」

顔を青くしたイルカに、ナルトが首を振る。

「ううん、解除は成功してたし、イルカ先生のアドバイス通りだった」

「じゃあなぜ・・」

「それが・・・」

サクラが、布に幾重にも包まれたものを、イルカに手渡した。

片手でカカシの体を支えながら、イルカをそれを地面に置いて、片手で布を開けていく。

布を一枚、一枚あけていくごとに、強い薬品の匂いが・・・。

「・・・・これは・・・」

たまらずイルカは布を元に戻し、サスケに固く結ぶように指導する。

「まさか・・・・」

カカシの顔を覗きこみ、濡れた顔に触れる。

「先生はこの薬品を被ったのか?」

ナルトがうなずく。

「大仕掛けは、無事に解除して、最初の四つも、ちゃんと地面から掘り起こせたんだけど・・・

その一つをカカシ先生が手に持っている時に爆発して・・・中のこの液体がカカシ先生に全部掛かっちゃったんです・・・」

サクラの説明に、イルカはがっくりと肩を落とす。

「・・・俺の説明不足だった・・・・・・」

「イルカ・・・先生」

肩を支えるイルカの手を、カカシが握る。

「あ、先生大丈夫?」

上から覗きこんで、サクラが声を上げる。

「大丈夫に見えるか・・っての・・・きもちわりぃ・・・・・・」

まるで酷い二日酔の様に顔を青くするカカシに、イルカが眉をひそめる。

「申し訳ない・・・俺が・・・詰めが甘かったばかりに・・・・・・」

「先生、重体なんですか?」

低い声で、冷静にサスケが問う。

肩で息をして、真っ青な顔で、うつろな目つきのカカシ。

確かに、ただ事ではなさそうだ。

「・・・この薬品の匂いは多分・・・著しく自律神経を失調させて、吐き気、頭痛などの二日酔に似た症状を起こす、

まあ一種の麻薬を調合した劇薬だ。自白剤として使う場合もあるんだ」

「死にはしないんですね?」とサクラ。

「でもなるべく早く解毒しないと、あまりこの状態が続くと危ない・・・ナルト!」

イルカは保健室を指差し、ナルトに解毒剤となる薬品名を告げる。

アカデミー中の窓から生徒たちや教師が校庭の様子を眺めている。

その視線の中、ナルトが小瓶に入った薬品をもって走ってくる。その背後から、保健の女医先生もやってきた。

「チコの実で調合した万能薬ですよ。それで効くはずだわ」

小瓶を受け取ったイルカは、その言葉を確認すると、瓶の栓を外した。

そして覆面を下ろし、瓶をカカシの口元に持っていくが、

「・・・?」

その手首を、カカシが掴んで止めた。

先ほどより荒くなった息使いに肩を上下させながら、目許を細めて、途切れ途切れの言葉を告ぐ。

「い、イルカ先生が・・・飲ませて下さいよ」

「え、だから今こうして・・・・あ・・・」

カカシの口端に、怪しい笑みが浮かぶのを、イルカは見逃さなかった。

「何を言ってるんですか・・自分で飲んでくださいよ」

イルカは眉間に皺を寄せる。

カカシは首をゆっくり横に振ると、苦しそうな息使いをする。

「・・・呼吸困難で、自分では飲み込む事が出来ないのね・・・」

背後から女医が、心配そうな声で言う。それに驚いたか、サクラが「ええっ!大変」と騒ぐ。

「ええっ、どうすんだってばよ、イルカ先生!」

ナルトが、場を煽るように慌てた声を上げる。

苦しげに呼吸するカカシの様子に、女医がいよいよ声に真剣みを帯びさせる。

「末期症状が出てしまったら、大変な事になるわよ!早くしないと・・・」

それにつられるように、「イルカ先生!」とサクラ。

「~~~~っ・・・!」

両脇でイルカを急かす三人。そしてイルカがふと前方をみると、

「・・・・・・・・」

ほぼ校舎全部の窓から、こちらを眺める生徒や教師の、幾つもの目、目、目。

そしてまたカカシに視線を落とすと、

今度は目許に、イルカにしか分からない、「いつもの意地の悪い笑み」が。

(これは仕返しなのか・・・・?)

昨日のやりとりを思いだし、イルカは内心で歯軋りした。

「カカシ先生、死んじゃうよ」

「先生、早く」

そんな声が、通りところでガンガンと響く。

小瓶を握りしめ、イルカは唇を噛む。

瞳の中に映るカカシの顔は、苦しそうに汗をかきながらも、やはりあの「笑み」が・・・。

「お、覚えてろ・・・・」

聞こえないような小声で低く呟くと、

イルカは瓶の中の液体を口に含んだ。

そして、カカシの肩を引き寄せると、左手でカカシの頬に手を当てて少し上を向かせ、

自分の唇を、カカシの唇に重ねた。

(絶対にもう口をきいてやるものか・・・)

いくつもの視線が、首筋につき刺さってくるような感覚がした。

だが、こともあろうに薬を飲みきるまでの間、イルカはカカシから口を離すわけにはいかず・・。

冷たい液体が、イルカの口を通して、カカシの口内に流れていく。

ごくり と音がして、カカシの喉元が動く。

「やった、飲み込めたわ」

女医が、しきりに感激する。

幾分、飲み込み切れなかった薬が、カカシの口元から首筋にかけて流れていく。

すべて飲みきったのを確認し、イルカは唇を離して顔を上げた。

薄く目を開けたカカシが、満足げに、また怪しい笑いを口元に浮かべている。

「~~~~~・・・・・こ・・の・・・」

殴り飛ばしたくなる衝動を抑え、自分の口元を濡らす薬を手の甲で拭い、ふと前方を見る。

見知った幾つもの目が、

その時のイルカには、

「何やってんだお前」と言っているように、見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで晴れて、公認ですね」

「・・・・・・」

「嬉しいですねぇ」

「・・・・・・・・」

「里中が認めてくれたわけですよ」

「・・・・・・・・・」

「いやあ、イルカ先生があんなに深~いキスがお上手だとはねぇ」

「カカシ先生!」

「なんですか?」

アカデミーの廊下に、イルカの怒鳴り声が響いた。

通りすがる子供や教師が、ちらりと一瞥しては、くすくすと笑いながら去っていく。

「あれは、人命救助です。それ以上でもそれ以下でもありません!」

眉をつりあげて、口元を引きつらせて、イルカはカカシに詰め寄る。

「イルカ先生がなんと言い訳をしようと、状況は変わりませんよ」

襟元を掴まれたまま、カカシは右目を細めて笑う。

「・・・・・」

ふとイルカが周囲を見渡すと、

「きゃきゃきゃっ」

と、イルカの視線から逃げるように、女子生徒達が笑いながら駆けだしていくのが見えた。

「・・・・・」

教職経験上、

この年頃の女の子達には、何を言い訳しても通じない事を、イルカは分かっていた。

 

 

背後で、重たい扉が閉じられるような、

そんな感覚にイルカは陥った。

 

 

人の噂も七十五日。

あと二ヶ月弱。

イルカにとっては、

永遠に等しい時間である。

 

 

終わり
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2005.10.25.Tue/14:33
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北野ふゆ子

Author:北野ふゆ子
> 昔は、ゲームやマンガの二次創作をしておりました。現在は主にオリジナルネット小説を執筆しています。 得意は「シリアス」「アクション」「サスペンス」です。

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