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  晴天と霹靂 
※青天の霹靂ではありません



晴天と霹靂
 

 「任務?」

 そこでサスケが顔を上げた。

  「カカシ先生の手伝いだってさ。昨日から、二人で遠出してるって」

 とナルト。

 下忍三人組、今日は、月一に新人下忍が義務付けられている課題に取り組んでいる。

 アカデミーの図書室の一角。机いっぱいに紙や本を広げている。

 「何で教師が任務に行くんだよ」

  レポートを書きながらふと何気なく及んだ話題。

  『イルカ先生に教えてもらおっかな~…』と溜息をつきながら机に突っ伏すサクラ。

  『無理だってばよ。先生今、任務に出てるし』と意味もなく本のページをぺらぺら捲りながらナルト。

  そこから、始まった。

 「イルカ先生、ああ見えても昔はどこか凄いトコに所属してたんだってばよ。カカシ先生が言ってた」

  「凄いところ?」

 やけにサスケの態度が陽動的だと気づいたものの、ナルトは別段気にせず、サスケの問いに答える。

  「特殊…何とかって所」

 「特殊…?特殊戦闘工作部隊か…」

 別名精鋭特工隊と呼ばれるその部隊。

 特に複雑とされる大規模な任務を請け負う、頭脳と技術と術力の集団であり、木の葉忍者部隊の中枢頭脳部と謡われている。

 「意外~。あの先生が?」 本を伏せて、サクラが身を乗り出してくる。

 「先生さ、トラップとか特殊武器とか使ったり作ったりするのが上手いらしいんだ」

 ほら、とナルトが手元の本を引き寄せてあるページを開く。

 「これ、先生が作ったんだってば」

  「……」

 上から、サクラとサスケが覗きこむ。 忍び武器辞典の「小型武器」の項目。『特殊くない其の一』とあった。

 通常のくないより、投げた時に狙いを定めやすい構造をしており、なおかつ標的に突き刺さった時、中深くまで抉り込む刃の構造をしているために、

 簡単には抜けないのだ。くないが刺さり、抜こうともがいている内に、それが致命傷となり標的は落命する…という。

 項目の隅に、イルカ先生の名前がある。

  「……」

 その本を取り上げ、サスケはページをぱらぱらと捲る。ところどころ目を止め、何やら真剣に読んでいる。

 くないの他に、大型武器、トラップに使われる武器など、幾つかの項目に並ぶイルカ先生の名前を、見ていたのだ。

  「その特工部隊員が何で教師なんか…」

 サスケの独り言を問いかけととらえ、ナルトが「さあ」と首をかしげる。

  「カカシ先生が言ってたけど、やっぱり性格に合わないから自分から辞めたって…」

 「やっぱりそうよね」

  サクラはそれに同意して頷くが、サスケは本を閉じて机に置くと、納得のいかない様子で眉目を顰める。

  「…なんでカカシのヤロウがそんな事知ってるんだ?」

  「同じ部隊に所属してた仲間だったんだってばよ」

 「同じ部隊…」 カカシ先生が暗部に所属していたのは聞かされていたが、特工にもいたとは…。

 それよりサスケが気に掛かるのは、イルカ先生と同じ部隊にいた、という事なのだが。

  「それがどうかしたの?」

 「…いや、なんでも」 サスケは再びペンを手に、もくもくとレポートを書き始めた。

  それに促されて、「締めきり締めきり…」とサクラ達も焦ったように本とにらめっこを再開した。

  「…」

 ふと、サスケはペンを走らせる手を止め、傍らの本に目を落とす。

 読む振りをして、頭にあるのは、先ほどのナルトの話。

 『同じ部隊に所属してた仲間だったんだってばよ』

 

 

  「その後、お元気ですか?」  

 数回目の任務で、カカシ先生と共に三人でイルカ先生がいる受付に行った時の事。  

 そう言って、懐かしがるカカシ先生と、それに笑顔で応えるイルカ先生のやりとりがあった。  

 「そちらも。でもまさか貴方がアカデミーに帰ってくるなんて」  

 「世も末でしょう?」

 「まったくです」

 「歓迎の言葉と受け取っておきましょう」

 書類に目を落とし、書き込みながらのイルカ先生。

 受付の机に置いた手に体重をかけてもたれかかり、でも視線は窓の外に向けられているカカシ先生。

 まともに視線を合わせないのに、そこに生まれている言葉の行き交いと、和やかな空気。

 「当分、アカデミーで?」

 「ええ、まあ。外での任務を兼ねながら」

 「ご無理はなさらないでくださいね」

 イルカ先生が、書き上げた書類を手渡そうと笑顔で顔を上げる。

 そこで初めて、カカシ先生もイルカ先生と視線を合わせ、目を細めてそれを受け取る。

 お互いに軽く会釈して、カカシは受付を離れ、イルカは次の忍に挨拶をし、書類を受け取る。

 ただ、それだけ。

 でもそこには、誰もが踏み入ることが出来ない、静かな空気があった。

 (…あれが、生死を共にした「仲間」に生まれる絆なのか……)  

 すごした時間の長さの違い。経験の量の違い。  大人と子供の違い。

 実践訓練で味わった、体力の違い、技の完成度の違い、術力の違い…。

 そんなものとは違う、また別の「次元」があった。

 「………どんな任務だって?」

 「え?」

 人気の無い図書室。

 それぞれレポートと本に集中し始め、まったく会話が聞こえてこない中に、 ぽつりとサスケの独言の様な言葉が流れてきた。

 「…イルカ先生の?」

 「参考までに聞きたい。元特工部隊二人が出向く任務ってのが、どんなものなのか」

 「あ、私も興味ある」

 サクラも本から顔を上げた。

 「詳しくは分からないけど…なんか、お届け物だって……」

 「ずいぶん簡単そうに聞こえるけど…」

 肩透かしを食らったように、サクラが言う。

 ナルトに心配をかけまいとするイルカの配慮が覗える。

 配達任務は、それこそ「何」を「どこ」に配達するかでレベルは上下様々だ。

 元特工部・暗部隊員の上忍が、中忍とはいえ同じく元特工部の忍を連れて行く程のものだ。

 「だから明日明後日には帰ってくるって言ってたよ。連休を利用しての任務だからって」

 「ふうん」

 こいつにムズカシイ話を期待したほうが間違いだったと、サスケは再びレポート用紙に顔を傾けた。

 また再び、紙を捲る音だけが図書室に聞こえるだけになった。

 

 アカデミーに入学したての頃は、あんな先生なんて大嫌いだった。

 いつも人の良さそうな笑顔をたたえて、 いつも子供達に囲まれて。

 いつも、生徒一人一人を気にかけて、心底心配そうな顔をしたり、本心から嬉しそうな顔で喜んだり…。

 ああいうのが、サスケは一番、嫌いだった。

 「甘え」という、サスケが一番嫌いな言葉がある。

 あの先生にまとわりつく、あの甘やかされたクラスメイト達も嫌いだ。

 甘やかしてる。  あんなんじゃ、忍なんて勤まらない。

 そう思うことにして、ずっとサスケはイルカ先生を避けてきた。

 だけど…あの先生が、元特工部隊の…。

 あそこに入る事が、上忍への一番の近道だと言うが…、その激務振りは辛苦の極みでもあるらしい。

 両親を亡くし、本人も幾多の任務と戦場を経験して、 今あるあの穏やかな人柄は、あの笑顔は、どこから来るのか。

 ああいう、生き方もある…ただそれだけか…?

 復讐者である事にこだわり続ける自分とは対照的だ。

 自分が間違っているとは思わない。復讐は、実行されるべき、自分の宿命である。 その決心は揺らぐものではない。

  だが、この羨望に近い感情は何だろう。

 痛い。

 

 

  連休が明けた。 レポートを書き上げると同時に、休みが終わり、また任務と訓練の日々がやってきた。

  レポート提出の為に、サスケはアカデミーに訪れていた。

  卒業したといっても、結局、月に数度はここにやってこなければならない。

  一人前と呼ばれるのは、まだまだ先という事だろう。 すれ違って駆けて行く、小さな子供達。

  まだ自分はこの子らと同じ線に置かれているのかと思うと、サスケは複雑な苛立ちを覚える。

  レポートを提出し終わり、玄関に向かう廊下を歩いている時だった。

  「イルカ先生、何で今日学校に来なかったんだろう」

  そんな、子供の声が飛び込んできた。

  「?」

  足を止め、振りかえる。

  二人組みの子供。

  「風邪でもひいたかな?独身の若い男は生活が不規則だからね~」

  きゃっきゃと笑いながら、二人組みは廊下を曲がりきって行った。

 嫌な予感。 サスケの足は、イルカの自宅に向かっていた。

  ドアの前に立つ。 ノックはせず、気配を探る。 帰ってきた様な痕跡はない。

 「………」

 さては…と思ったが、カカシの自宅を、サスケは知らない。

 

 そして次にサスケの足が向かったのは、

  「ドベ…」

  「な、サスケ…」

 「何でお前がここに」

  「…サスケこそ…」

 三代目の元だった。

 息を切らせて駆け込んできたサスケに驚いたナルトの姿もあった。

  ここにナルトがいるという事は…。

 部屋の奥に進むと、少し広い部屋に通った。火影の後姿が、まず目に入る。

 そして、少し大きめのベッドと、その傍らに椅子を置き、そこに腰掛けるカカシ先生の姿も。

 「……」

 白いベッドの中に、ほのかに赤いものが見える。

 イルカ先生だった。 赤く見えたものは、包帯からわずかににじむ、血。

  「……」

  「サクラちゃんも来てて、ちょっと薬を買いに行ってるんだ」

 背後からナルトの声。 おそらくサクラも、レポート提出の際に、偶然に聞き及んだのだろう。

 腕を前で組んでいるカカシの前を通りすぎて、サスケはベッドの前に立つ。

  「今、ようやく眠ったところじゃよ」

 そう言って三代目はついと踵を返し、机の前に移動する。ゆっくりと腰を下ろし、机の上に広げてあった白紙の巻き物に、書物を始めた。

 イルカ先生は、うつぶせに寝かされていた。

 かけ布団は腰のあたりまでかけられている。

 あらわになっている背中に巻かれた包帯。そこににじんでいる血。随分面積が広い。

 他にも、腕や顔に、手当ての跡。

 額が汗ばんでおり、怪我のせいで発熱しているのか、大きな息使いをしている。

 泥の汚れや、血の汚れが生々しい。

 今しがた、帰ってきたばかり…といった感じか。

 「……何が起こったんだ?」

 サスケが、背後に腰掛けるカカシに問い掛ける。

 「…………」

 カカシは無言だ。

 「俺にも、教えてくれないんだってばよ」

 更に背後から、ナルトの拗ねる声。

 「………」

 肩越しに振りかえると、足と手を組んで椅子に座るカカシの姿。

 まっすぐにこちらを見ているのではなく、少し俯いて、窓の縁でも眺めているのか、あらぬ方向に視線を向けてぼんやりとしていた。

 「…何やってんだよアンタは」

 体ごと振りかえり、サスケはカカシと向かい合った。

 「一介の教師を連れ出して…大怪我させて……上忍のする事なのかよ」

 声は静かだ。

 だが、その水面下に見え隠れする感情は、

 激しく、怒りに満ちていた。

 「……」  カカシは無言を保つ。腕を組んだ、ふてぶてしい体勢は変わらない。

 机の前で、三代目が巻物に書物をしながら、あえて口出しをせずにこちらの様子を覗っているのが分かる。

 「……甘えてるんじゃね―ぞ……ウスラトンカチ」

 「……」

 ゆらりとした動作で、やっとカカシが反応を見せた。

 ゆっくりと顔を上げる。

 覆面から唯一露出した、ぼんやりとした右目がサスケの視線をとらえる。

 その目は、笑ってもいない。泣いてもいない。

 「……」

 一度反応を見せたものの、カカシは再び俯き気味に視線をサスケから逸らした。

 そしてまたゆらりとした動作でカカシは立ちあがる。そして部屋から出ていってしまった。

 部屋の出口で、外から帰ってきたサクラとかち合う。

 「あれ、カカシ先生、お薬買ってきたよ?」

 紙袋を両手で大事そうに抱えたサクラの頭にぽんと手を置くと、そのまま無言で、去って行った。

 「…?どうしたの?あれ、サスケ君も来てたの」

 部屋に入るなり漂ってくる気まずい空気に、サクラは肩をすくめる。

 「……カカシを許してやってくれんかの?」

 無言のまま立ちつくす子供達三人に、三代目が言葉をかける。

 書物をしていた筆を筆置きに横たわらせ、椅子から立ちあがる。

 「飄々としている様に見えて、あれで中々堪えてるんじゃよ」

 「………」

 三代目は、ベッドの傍らまで来ると、イルカをそこから見下ろす。

 背中の傷を見て、サクラを呼ぶ。

 「包帯の替え、買って来てくれたかの?」

 「あ、はい。お薬の材料も…全部ありました」

 紙袋を受け取り、中身にざっと目を通し、三代目は「よし」と頷く。

  「薬を調合する。サクラと、ナルト、おぬしら、手伝いじゃ」  

 別の部屋へと続く扉から、二人を手招きする。

  「は、はい…」

 「サスケは…」  

 三代目は部屋に残るサスケに一言、こう言い残す。

 「カカシと仲直りでもしてきなさい」

 「………」

 三人が入っていった扉が、静かに閉められる。

 部屋は、急に静寂に包まれた。

 聞こえるのは、イルカ先生の、かすかな寝息だけ。

 カカシが去って行った方の出口を見やり、どうしたものかと、サスケは思案する。

 気配を追っていけば、カカシがどこに行ったかはすぐに掴めるだろう。

 あの様子じゃろくに気配も消さずにフラフラしているに違いない。

 「……こっちから探しにいくのも借だな………」

 溜息を漏らす。

 その息に混ざり、

  「う……ん」

 と、イルカの声。

 振りかえる。

 だが、イルカは眠ったまま。

 呼吸をするたびに、肩と背中が上下する。背中ににじむ血痕が痛々しい。

 サスケは、ベッドに歩み寄る。

 膝をつき、イルカ先生と視線の高さを合わせて、ベッドに寄りかかる。

 熱い吐息が掛かる位置。

 額や頬に珠となっている汗と、まだ落ちきれていない泥と血の匂い。

 その寝顔に誘われる様に、サスケはそっと、顔を近づけて

 その唇に、自分の唇を重ねる。

  一瞬交わしただけの、軽い口付け。

 それでも、熱がそこから伝わってきて、全身を駆け巡るほどの眩暈に…。

 そしてもう一度、軽く唇を、イルカ先生の唇に押し当てた。

 「……さて…」

 音を立てないように、サスケは立ちあがる。

 カカシが出ていった扉へと、足を進める。

 

 イルカ先生と三代目に免じて…仲直りをしてやろう

 

 「言いすぎた。すみませんでした」

 という謝罪の言葉を用意し、心の中で反芻する。

 今回は、生徒としておとなしく、折れてやろうと、思った。

 

 扉を開ける。

 午前中までの曇り空が、嘘のように晴れあがって、今は澄み切った青空。

 カカシ先生の気配を探る。

 「…あっちの方…かな?」

 だいたいの方向を検討づけると、サスケは屋根の上に飛びあがり、建物伝いに里を駆け出していった。

 

 だけど…  

 今度は多分、生徒としてではなく、

 一人の、個人として、

 男として、  

 

 譲ってやるものかと…

 

 そんな決心を胸に宿すのだった。

 

 

おわり
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2005.10.25.Tue/14:31
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> 昔は、ゲームやマンガの二次創作をしておりました。現在は主にオリジナルネット小説を執筆しています。 得意は「シリアス」「アクション」「サスペンス」です。

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