スポンサーサイト 
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--.--.--.--/--:--
  教えの庭 


教えの庭
 どいつもこいつもウスラトンカチばっか。ウザイ。

 でかい口ばかりたたく里の大人達。

 ギャーギャーさわぐ女ども。

 バカ言って笑ってばかりの男ども。

 何もかもウザい。

 忍者アカデミーに入学する事になったその日の朝。雲一つない青空。

 アカデミーの前は、入学を控えた子供と親たちの群れで賑わっていた。

 その脇をサスケは一人、足早に通り過ぎて行った。教室指定の表が貼ってある掲示板の前に立ち、自分の名前を探す。

 「ほら、あったわよ、ハヤテの名前」

 「ホントーだ!」

 すぐ背後で甘えたような子供の声と、若い母親の声がする。

 ウザイ・・・・。

 はしゃぐ親子らの群から早く抜け出したくて、サスケは校舎の方に向かった。

 「ほら、あの子よ・・・例の・・・」

 「?」

 憎悪を剥き出しにした声に、サスケは足を止めた。

 数人の大人が固まって何やらヒソヒソと、話し込んでいる。彼らの視線は、ある一人の子供に向けられていた。

 「なんであの子がアカデミーに?」

 「・・・なんでよりによってウチの子が入学する時に入ってくるのかしら・・・」

 「いい迷惑よ・・・」

 サスケがその視線を追っていくと、そこには黄色いツンツン頭の少年が。

 「・・・・・・・」

 あいつが何だというのだろう?

 黄色い頭の少年は、落ち着きなさそうに飛び跳ねたり走り回ったりしては、一緒に来ていた父親らしき男を困らせている様子だった。

 「おまけに、親無しでしょ?どういう風に育ったか分かったものじゃないわ」

 ・・・親無しでしょ?どういう風に育ったか分かったものじゃないわ

 「フンっ・・・」

 顔をしかめてサスケは歩き出した。ならお前らはよっぽど立派な親なのか、と言いたい衝動を飲み込む。

 だが、

 「火影様のお言いつけとはいえ、たまったものじゃないわね」

 「!?」

 サスケは再び足を止めた。

 今何て?

 (あいつ・・火影様の・・・?)

 何だというのだろう。

 サスケが見ている前で、黄色い頭の少年は相変わらず飛び跳ねたりウロチョロしている。

 いつの間にか、付き添いの男がいなくなっていた。

 あらかた、火影様に少年をアカデミーまで送り届けるよう言われ、「任務」を終えたので早々に帰った・・・というところだろう。

 (・・・・親無し・・・・・か・・・)

 キーンコーン・・・

 チャイムが鳴った。

 (まあいいか)

 校庭でたむろしていた子供達や親たちが、それを合図に校舎に向けて歩き出した。

 サスケも、その波の間をくぐって、目的の教室に向かう。


--------------------------------------------------------------------------------

 「入学おめでとう!」

 担任だと自己紹介した若い男の教師が、開口一声、笑顔で言った。

 教室内は、新しい季節への期待感に興奮し、じっとしきれない子供達の活気でいっぱいだった。

 ざわざわ落ち着き無い教室内が、その教師の一声で少し、落ち着きを取り戻したようだった。

 だがサスケは、階段教室の最後列、一番窓際に席を取っり、入室した時からずっと頬杖をついて窓の外を眺めていた。

 何を考えるでもなくぼんやりしているサスケの耳に、教師の声が流れてくる。

 「君たちは、里の将来を担う忍者になるための第一歩を踏み出したわけです」

 ふん、ウザい。

 人が良いだけが取り柄に見えそうな若い担任。

 その他のトロそうな教師達。

 浮かれ気分の幼稚な同級生。

 何もかもウザい。

 担任教師の話は続く。里の簡単な歴史、アカデミーの成り立ち、これからの修行カリキュラムを、簡単な言葉で説明している。

 「と、この様に忍者は、技、体、知、そして心の四つがそろって、初めて一人前になれる」

 「おー」

 「カッコイイーー」

 と所々声があがる。

 ウザい。

 きれい事を並べても結局、忍者は力で順序が決まる。それこそ、戦いの世界はそれが全てだ。

 そんな甘やかした事ばかり言ってるから、こんなウスラトンカチばかりなんだ。

 サスケは窓の外を眺めながら、教室内に耳を傾けていた。

 ウザい教師の挨拶にウザい生徒達の会話。

 溜息をついたり興奮して声をあげたりする子供達の反応に、若い担任教師は「ははは」と軽く笑って言った。

 「カッコイイ・・・か。まあ確かにな。上忍や火影様の技や術なんかみてると、カッコイイよな」

 窓の外を眺めるサスケには見えないが、きっとあのトロそうな笑顔でニコニコ笑っているに違いない。

 子供達の反応を待ってから、「でもな、」と教師は言葉を続けた。

 「そんなこと言ってると、死ぬぞ」

 「!!」

 すぐ背後から声がして、サスケは弾けるように振り返った。

 「なっ!」

 そこには、いつの間に移動したのか、先生の姿があった。

 急に教壇から姿を消し、教室の隅に移動した先生の姿に、教室中が声をあげた。

 「・・・・」

 いつの間に・・・・

 「お、ここから見える桜はキレイだなぁ。先生、気が付かなかったよ」

 サスケが言葉を無くしている間に、若い先生は、サスケが眺めていた窓の外をのぞき込み、感心の声をあげる。

 「なかなか、目の付け所が良いな、ええと、サスケ君だったね」

 「・・・・・」

 その教師はまた満面の笑顔を向けると、教壇にゆっくり戻りながら、何もなかったように話を続ける。

 「さて、さっきの続きだが、脅かす様な事を言うかもしれない。でもな、先生がいいた事は、絶対に油断するな、という事だ」

 遊びじゃないんだ、と先生は付け加える。

 「忍になる、という事は・・・まあ、今はいいか。少しずつわかればいいや」

 先生が見せた技と、少し難しくなった話に子供達が表情をこわばらせた事に気づき、若い先生は(やりすぎたな・・・)と頭をかきながらまた、笑った。

 少し引き気味の教室内で、一人だけ「すっげー、イルカ先生」と騒ぐ子供がいた。

 「・・・・」

 あいつ、

 サスケと同じく、両親がいないと言われていた、あの黄色い頭の子供、

 うずまきナルトである。

 


--------------------------------------------------------------------------------

 そんなこと言ってると、死ぬぞ

 死ぬぞ 死ぬぞ 

 ウザい

 そんなこと言ってると、死ぬぞ

 (クソっ・・・・)

 アカデミーでの訓練生活が始まって一ヶ月が経とうとしている。

 だが、相変わらず何もかもがウザい。

 訓練の練習相手にもならない弱い奴ら

 物覚えのわるい奴ら

 サスケは入学早々からその実力と才能で頭角を現していたので、結局、自分より力が劣る同級生全員がウザかった。

 だがもっと更にウザい事に、入学初日の出来事が、日常ことあるごとに頭に思い浮かんでくる、という事だ。

 格闘演習の最中、

 自主訓練の最中、

 授業の最中、

 宿題の最中、

 -絶対に油断するな

 -死ぬぞ

 死ぬ気でやれ

 目的を果たしたければな

 サスケには、そう戒めている言葉に聞こえて仕方がない。

 あのイルカ先生とかいうウスラトンカチ教師がそこまで考えてそう言っているかは疑問だが。

 「サスケ!ストップ!」

 「えっ・・・!」

 拳を大きな手のひらで止められて、サスケは我に返った。

 地面に尻をついて半ベソをかいているクラスの奴の顔が正面にあった。

 「あ・・・」

 まさに今、サスケが彼を殴り倒そうというところだったのだ。

 その拳を止めたのが、新入生の格闘実技の授業担当の一人、ミズキ先生だった。

 「どうしたんだい、サスケ君・・・」

 優しい色男として女の子達に人気があるミズキ先生が、いつもの丁寧な、だが窘める感を含んだ口調で、訊ねる。

 そうだった、今は、格闘実技の授業中で、組み手をしていたところだったのだ。

 だが、その最中に頭によみがえったあの日の出来事がサスケを本気にさせてしまい、

 今目の前にいるクラスメイトに大けがを負わせてしまうところだったのだ。それを、担当のミズキ先生が止めに入った。

 「ごめんなさい・・・」

 ここは素直に拳を引く。

 すると、恐怖から解放されたそのクラスメイトは、とうとう泣き出してしまった。

 ウザい。

 「ほら、もう泣くな。男の子だろう?」

 ざわつく周囲に組み手の続きをするように指示を出すと、ミズキ先生は保健係の女の子を呼んで、泣き出した少年を保健室へ連れて行くよう指示した。

 そして、またサスケに向き直る。

 「何か、考え事をしていたね、サスケ君」

 サスケと目線を合わせるために中腰になる。

 「何でもない」

 サスケはぶっきらぼうにミズキ先生の親切を突き放す。

 「今日だけじゃない。先生は分かっている。君は時々、その、何か別の事を考えているだろう?」

 余計な詮索だ。

 「何でもない」

 そうか? とそれ以上しつこくはせず、ミズキ先生は立ち上がった。

 「はい、組み手止め!」

 そこで、授業終了のチャイムが鳴った。

 


--------------------------------------------------------------------------------

 放課後。

 校舎内や校庭で遊ぶ子供達の誘いを一切断り、無視し、サスケは誰もいない自宅に戻った。

 自宅に戻ったらする事は毎日決まっている。軽い食事をとった後、夕食前の自主トレに出るのだ。

 場所は裏の雑木林。住宅街の裏にぽっかりとある小高い丘の雑木林。滅多に人が来ず、自主トレの穴場なのだ。

 サスケの自主トレ場となっている林。木々には訓練用の人形や木の枝がつり下げられており、どれもボロボロだ。

 また、クナイや手裏剣投げ訓練用の的も穴だらけだ。特に的の中央が。

 まず素振りを始めようと、サスケは的の下に立てかけられている木刀を手に取る。

 その時、背後から草と落ち枝を踏み分けて近づいてくる気配に気が付いた。

 この気配は・・・

 振り返る前に、サスケは気配の主の名を呼んだ。

 「イルカ先生」

 「お、よく分かったな」

 バカにしているのか・・・?

 今は別に気配を消して近づいてきたわけではない。教師が生徒を訪ねて来ただけで、その必要はないのだから。

 「何の用だ」

 「ん?いや、別に。ちょっと、ミズキ先生から今日の事を聞いてな」

 それで説教か?ウザい。

 「それにしてもすごいなぁ。これ全部、サスケの訓練道具か?」

 辺りを見渡して、イルカ先生はひたすら感心する。

 「なるほどね」

 「?」

 「各授業担当の先生から君の成績を報告されたんだが、どれも最高点でね。その裏にこんな努力があったのかって、納得してたんだよ」

 「・・・・」

 「学校の実技訓練は、君にはちょっとストレスが多いんじゃないか?」

 「え?」

 「ミズキ先生から聞いたんだ。君は強すぎるから、授業を楽しめていないって」

 「別に」

 顔を反らせてふてぶてしく言い捨てるサスケに、イルカ先生は学校で見せる笑顔を見せた。

 サスケはこの笑顔も嫌いだった。

 「何か、話したい事とか相談したい事があれば、聞くけど?時々、考え事してるだろ?」

 「別に」

 そうか。 と、この先生もそれ以上追求しようとしなかった。話してくれる日を待つ、という事だろうか。

 (そんな日は一生こねーよ・・・)

 サスケは内心そう呟く。

 「そうだ、サスケ」

 イルカ先生が明るい声を出した。

 (今度は何だ?)

 あまり歓迎しているとは言えない顔で、サスケはイルカ先生を振り向く。

 するとイルカ先生は、人差し指をたてて、

 「一本、やろうか」

 と、笑顔で言った。

 「あ?」

 「実技の授業で思いっきり動き回れないんじゃ、ストレスも溜まるだろう?なんでも君の相手が出来る生徒がいないって話だし」

 「・・・先生が訓練相手になるって事か?」

 「スッキリするぞ。思いっきり体を動かすと」

 サスケには、この若い担任教師の意図が分からない。

 -死ぬぞ

 この間の続きを、今度は体で分からせてやろうってのか?

 (フンっ・・・。どこまで出来るかやってもらおうじゃねーか・・・)

 科目担当制のアカデミーでは、担任の教師が一クラス全ての科目を受け持つわけではない。

 例えばサスケの場合、忍術知識初級と中級をイルカ先生に、初級体術をミズキ先生その他数名に、剣術をまた別の先生に・・・という風であり、

 この若い担任教師がサスケの全てを知っているわけでもないのだ。

 その事を知っているから、サスケは、この若い新任教師が自分を甘くみているとよんでいた。

 (学校が評価する成績ばかりが俺の実力だと思うなよ・・・・。俺は他の奴らとは違う)

 「じゃあ、お願いします」

 やっと素直な言葉をサスケの口から聞くことが出来て、イルカ先生は破顔する。

 その表情に内心、サスケはますます負けん気の炎をたぎらせる。

 「寸止め無しの一本勝負。それでいいか?」

 サスケは頷き、構える。体を少し斜めに向け、右足を引き、左手を前方に構え、右手を脇で構える、いわゆる実戦型の基本構えだ。

 それを見て、イルカ先生はニコリとほほえみ、「よし」と、自らも構えを作った。

 (・・・・)

 学校の体術の授業で誰でも教わる、基本中の基本構えだ。

 両手を前方に構え、体は正面。利き足でない方を後ろに少し引く。

 しばし、構えて向かい合う二人の間に沈黙が走った。

 チチッ

 サスケの頭上、枝から小鳥が飛び立つのを合図に、

 「たっ!」

 サスケが飛び出した。

 狙うはイルカの顔、首、胸、鳩尾、などの、いわゆる急所だ。それに加え、足元、腕、肩など、相手が体勢を崩す場所を狙う。

 子供とは思えない打ち込みの速さと強さだ。

 イルカ先生はそれらをすべて受け止めながら、考えていた。

 「くっ!」

 確かに気兼ねなく思いっきり打ち込める。

 (だけど・・・)

 こうも全て受け止められちゃあ、逆に面白くない。

 「っ・・・」

 いったん、サスケはイルカ先生から離れる。間を取って、呼吸を整える。

 一方のイルカ先生は、最初の構えの姿から変わらぬ体勢で、息一つ乱さず、汗一筋とかかず、平然と立っている。

 クソっ・・・

 自分から攻撃するまでもない、というわけか。

 ならば、

 (攻撃させるまで!)

 今度はイルカ先生に直進せず、斜め前方に飛んだ。

 「!?」

 変則的な動きを見せたサスケに、イルカ先生は「おや」という表情でその動きを素早く目でとらえる。

 「シュっ!」

 顔を狙って蹴りを繰り出すと、僅かな動きのみでかわされた。だがこれは、計算のうちだ。

 サスケは体を半回転させ、イルカ先生が顔をよけた先を狙う。

 「おっ・・・と」

 顔を狙いに来たサスケの足を左手で払うと、時間差で更に顔を狙ってくるサスケのもう片方の足を強く払った。

 それにバランスを崩したサスケは、攻撃を止めてイルカの背後に着地。そしてすかさず背中を狙って蹴りを入れようと・・・

 「ぐっ・・!」

 飛びかかったところを、イルカ先生の右手のひらで押し返された。後ろに二、三歩よろめくが、すぐさまサスケは攻撃を仕掛ける。

 (・・・これは新入生レベルをはるかに越えているな・・・・・)

 勝利に貪欲で攻撃的、しかもしぶといサスケの次々と繰り出される攻撃に、イルカは心内で感嘆した。

 (ナルトもこれの半分くらいでいいから出来てくれれば俺も苦労がないんだが・・・)

 これだけ断続的に、力一杯に攻めてくれば息も上がろうが、サスケは休もうとしない。

 (それにしても、この年でこれだけの闘争心はどこから来るのだろう・・・)

 攻撃の組み方を変則的に変えてきたサスケの攻撃に、イルカは軽い反撃を加え始めた。

 (入学してきた時から気になっていた。こう・・・子供らしくない・・・というのか・・・大人びているといのか・・・)

 興に乗ったか、サスケは更に全力でかかってくる。

 (うちは一族といえば・・・まあ、事情は分かるが・・・こんな小さな子供が「復讐心」なんてものを知っても良いものだろうか・・・・)

 「・・・・・くっ!」

 相変わらず息一つ乱さないイルカ先生の様子に、サスケは負けん気からくる苛立ちを覚えつつ、

 学校では得られない手応えに、徐々に楽しさを感じ始めていた。

 口元に、無意識の笑みが漏れる。

 初めて見せた笑みだ。

 (・・・・あ、)

 それを見逃さなかったイルカは、思わずスキをみせてしまった。

 今だ!

 サスケはその一瞬のスキを狙った。

 防御がおろそかになったイルカの脇腹を狙い、右足を蹴り上げる。

 「っ!」

 それをまともにくらうほどイルカは甘くない。

 だが、攻撃をかわそうとサスケの足を払う時に手加減をする余裕は、無かった。

 バシッ

 「うわっ!」

 とサスケの口から漏れる声。

 (しまった!)

 とイルカ。

 思いっきり足を払いのけられ、サスケは大きくバランスを崩した。

 受け身をとる余裕がなく、サスケは肩から落ちていく。

 「あぶな・・・っ!」

 とっさにイルカはその体を受け止めようと手を伸ばした。

 ザクッ・・・

 「!?」

 地面に叩きつけられる事を覚悟し、目を固く瞑っていたサスケだが、フワリと体が浮く感覚・・・。

 あれ・・・?

 何で地面に落ちないんだ?

 それより、今の不吉な音は一体・・・・・

 恐る恐る目を開ける。

 「・・・・・・・?」

 見ると、しゃがみ込んだイルカ先生が右手でサスケの体を支えていた。だが、次に目に入った光景に、サスケは思わず声をあげて立ち上がる。

 「あ・・・っ!」

 イルカ先生の左手首が、真っ赤に染まっている。

 「な・・・何で・・」

 そして地面には、刃を赤く染めた手裏剣が・・・。

 「・・・・・!」

 練習用に使っていた手裏剣が放置してあり、そこに落ちそうになったサスケを受け止めようとして、イルカがそれで左手首を傷つけたのだ。

 ヤバい血管を切ったのか、左手から血が溢れて止まらない。ボタボタと、血液が地面に落ち、模様を描く。

 「あ・・・」

 その血の量に、サスケは急に顔色を変えた。

 赤・・・。

 イルカにも覚えがあった。

 両親を染めた色だ。両親を死に追いやった色・・・。

 大人になった今も、他人の血液を見ると妙な目眩を覚える。

 幼少期に受けた傷のしこりだ。

 いつしかのイルカの様に、サスケも愕然として膝を微かに震わせていた。だが、その口から意外な言葉が出る。

 「血・・・血止め・・・しな・・・いと」

 「・・・・・サスケ・・・」

 イルカは目を見開いた。

 「・・・前・・・に授業でやっ・・・・た・・・・」

 ・・・・・・驚いた。

 それでもこの少年は、何とか正気を保とうとしている。担任教師の怪我、という目の前の状況に、対処しようとしている。

 ぐるぐると混乱する頭の中で、先日授業でならったばかりの「初級応急処置・血止め」の項目を思い出そうと必死になっている。

 それ以前に、無事な利き腕でその傷の応急処置をイルカが自分で施せばそれで済むのだが、

 「落ち着け、落ち着けサスケ」

 あえてイルカは、それをしようとしなかった。

 「大丈夫だ。俺は大丈夫だから、落ち着け」

 無事な右手を、サスケの肩に乗せる。

 「・・・・・」

 震えながら、サスケは首を縦にやっと振る。

 「よし・・・。じゃあ、思い出せるか?血止めの仕方」

 サスケは目を閉じ、深呼吸を二回繰り返した。

 そしてゆっくりと目を開けると、自分の額を覆っていた白いハチマキを解いて手にした。     ←ハチマキなんてしてたんだ・・・

 「まず・・・・布で・・・傷口より、少し心臓に近い場所・・・・を縛る・・・・」

 「うん・・そうだな。次は?」

 イルカが一つ一つうつ相槌に促されながら、サスケはイルカの左手首に応急処置をほどこしていく。

 「最後に、もう一枚布を当てて、縛る・・・」

 「うん。そうだ」

 最後の結び目を縛ると、サスケは急に脱力感に襲われて膝をついた。

 「よし、ありがとう、サスケ。よくやった!」

 白い布でぐるぐるに巻かれた左手をヒラヒラさせながら、イルカはサスケの背中を数回、叩いた。

 「・・・・・大丈夫だよな・・・・」

 「ん?」

 脱力しきったサスケの声。

 「・・・・本当に、ちゃんとできたんだろうな・・・・おれ・・・」

 イルカの顔をのぞき込む様に、サスケは恐る恐る訊ねた。

 先ほどの出血量に、まだ不安感が残るのだろう。

 「うん。大丈夫だよ」

 「ホラね」とその手を振りながら、イルカ先生はアカデミーで見せる笑顔。

 「それより、お前は大丈夫か?ゴメンな・・・つい、やりすぎた・・・。お前、強いよ。最後は手加減できなかった」

 そう言って、イルカ先生はサスケの頭に手を置いた。そして何度も、

 「・・・・・やめろよ・・・」

 撫でる。

 「・・・・・」

 何度も、撫でた。


--------------------------------------------------------------------------------

 「チョット!アレ!」

 「キャーッ 意味深!!」

 翌日、左手首に白い包帯を巻いてやってきたイルカ先生達に、クラスの女どもが騒ぎ立てて、妙な噂がたったのは、言うまでもない。

 授業中、あちこちから聞こえてくるヒソヒソ話が耳に流れてくる度に、サスケは目元をしかめた。

 -恋人との痴情のもつれよ!きっと!

 -キャーッ コイビトって誰ェー!?

 ・・・・ウザい。

 -もーっ 地味だ地味だ思ってたら、イルカセンセーったら、キャーッ

 -外見じゃわからないものねぇ

 クラスの中ではいつの間にか、イルカ先生はコイビトとの色恋沙汰の結果に自殺未遂を起こした事になっていた。

 「イルカ先生ってば、オレ知らなかったよ。一言相談してくれればいーのにさー」

 ナルトさえ、そう言って来る始末。

 「大変な事になっているらしいですね、イルカ先生」

 職員室では、ミズキ先生までが笑いながらそう話しかけてくる。もう学校中で持ちきりだった。

 「止めてくださいよ、ミズキ先生まで」

 苦笑いでイルカはそれらに応える。

 「失礼します・・・」

 職員室の扉が開かれる音と共に、子供の声。

 「お、サスケ・・・」

 サスケが日誌を片手に、扉から職員室の中をうかがっている。イルカの姿を確認すると、心なしか少々和んだ表情で歩いてくる。

 「今日はサスケが日直だったな」

 無言で頷いて、日誌を渡すと、サスケは「失礼しました」と足早に職員室を出ていった。

 「なんか・・・」

 その後ろ姿を見送って、ミズキ先生が呟いた。

 「何か?」

 「サスケ君、変わりましたね。イルカ先生」

 「え、どこがですか?」

 イルカに訊ねられて、ミズキ先生は顎に手を持って考えこむ。

 「どこ・・って・・・何となくですけど、どことなく・・・」

 「そうですか?」

 イルカは空々しく応える。

 サスケ君、変わりましたね。

 確かに、イルカは昨日、いつもと違う表情を見せたサスケを知っている。

 ムキになったり、笑ったり、恐怖に震えたり、照れたり・・・

 そんな子供らしい姿を見せたサスケを知っている。

 だけど、

 サスケがそれを普通にみんなに見せられるようになるまで、イルカはそれを自分だけの秘密に留めておこうと思った。

 「いつも通り、真面目な生徒ですよ」

 とイルカは今手渡された日誌を開く。

 

 <今日の出来事> 5月 12日 日直:うちはサスケ

 八時半から朝礼。校長先生の話は「防災訓練の重要性」。みんな、あくびをしながら聞いていた。うずまきナルトが立ち寝していた。

 たぶんああいうのが被害者第一号の典型だと、思った。

 今週は、廊下での衝突事故防止週間であるのにも関わらず、うずまきナルトが雑巾に足を乗せてすべって遊んでいた。

 やっぱり、ぶつかってヒンシュクをかっていた。

 授業中、最近、春野サクラを中心とするグループが無駄話をしてうるさい。

 今日、イルカ先生が左手に包帯を巻いてきた。クラス中で「イルカ先生の色恋沙汰自殺未遂事件」の噂が広がっていた。

 

 ありがとうございました。

 

 

 「・・・・・・・・・・」

 「?どうしました?」

 「あ、いや、何でも」

 背後からミズキ先生がのぞき込む。イルカは、ごく自然に、日誌を閉じた。

 「お茶でも、煎れましょうか」

 後ろを振り返り、イルカは笑った。

  終わり
スポンサーサイト
2005.10.25.Tue/14:27
COMMENT TO THIS ENTRY
   非公開コメント  
TRACKBACK TO THIS ENTRY

お知らせ

  • WEB拍手やご意見ご感想へのお返事は、BBSに記載しております。

管理人へ連絡


お気軽にお声がけ下さい
ID= eishika_yieza


ご意見ご感想はこちら(BBS)
ご意見ご感想はこちら(FORM)
メールはこちらから

参加中



超・長編小説同盟に参加しています。

私はClubA&Cに加盟しています。
よろしければご感想をお聞かせ下さい。
私も貴方の作品の感想をお送りさせて頂きます。

プロフィール

北野ふゆ子

Author:北野ふゆ子
> 昔は、ゲームやマンガの二次創作をしておりました。現在は主にオリジナルネット小説を執筆しています。 得意は「シリアス」「アクション」「サスペンス」です。

ブロとも申請フォーム

リンクリスト

ブログ内検索


CopyRight 2006 北凪 All rights reserved.

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。