スポンサーサイト 
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--.--.--.--/--:--
  木漏れ日 


木漏れ日
 

 毎月欠かさなかった、あの奇妙な休日も、もう終わりかもしれんな・・・・

 

 荒い息を吐きながら、カカシはそんな事を思った。

 体を打ち付ける様に降り注ぐ雨。

 冷たく、寒い。

 かろうじて、助かる点は、体に染みついた血臭を洗い流してくれる事だ。

 

 ・・・三日で帰れるはずだった。

 

 三日で帰って、明日にはまた、「あの休日」がやってくる・・・はずだった。

 (・・・・これまでかもしれねーな・・・)

 任務自体は大したことではなかった。とある城主に巻物を届ける。ただそれだけだった。

 だが、何が書いてあるか知らないが、やたらそれを狙ってハエ野郎どもがたかってくるは来るは・・・

 軽い切り傷や刺し傷を数カ所負いながら、やっとのことで追手をまいた。

 だがもう、四日は寝ていない。何も口にしていない。

 だが動けば気づかれる。

 それはつまり、死を意味していた。

 疲れに朦朧とした意識の中で、何故か思いはせるのはあののどかな木漏れ日の休日。

 平和ボケもいいところだ・・・

 人を斬る事を、任務だと思って割り切っていた自分が懐かしくさえ、思う。

 大木にもたれ、たわいもない男の独白を聞きながら、そよぐ風に心地よくなり、まどろむ。

 毎月の、あの休日・・・

 そんな時間がいとおしく思う自分がいる。

  

 あの休日の始まりは、もう二年も前にさかのぼる。

 

 あの日カカシは、昼寝の場所を、探していた。

 

 

 休日くらい、誰にも邪魔されたくないものだ。

 だが、家にこもるのも性に合わない。

 どこか、誰も人が来ず、鳥がさえずり、緑が萌え、静かな風が吹く場所で、ゆっくり昼寝でもしたいものだ。

 そんな場所が、里の中にたった一カ所、存在した。

 慰霊碑の広場である。

 里の南側に位置する別名「慰霊の森」の奥、数年前の戦いで命を落とした者達を讃えた慰霊碑が、忘れられたように建っている。

 今となっては、ここに花を手向けに来る者もいない。

 あの忌まわしい記憶は、新しい世代の誕生により風化していく。

 いや、みな、故意にそれを忘れようとしている。

 昔はアカデミーの生徒が毎週、当番を決めて掃除をさせられていたのだが・・・その習慣ももう無い。

 だが、はたけカカシにとってそれは好都合な事だった。

 絶好の昼寝場所を得る事が出来たのだから。

 新米上忍のカカシは、最近ストレスに悩まされていた。

 上忍の位に鼻高々になって高飛車な先輩達、実力もさほどないクセに態度だけはデカいお偉いさん集団・・・

 新人はそれなりに苦労が多い。特に、階級制度が明確な忍の世界では。

 慰霊碑のそばに、まるで眠る魂達を見守るようにそびえ立つ大木に飛び昇ると、

 カカシは手頃な枝に腰を下ろし、太い幹に背中を預けて、ウトウトと心地よいまどろみにひたりはじめた。

 いい気持ちだ・・・・

 頬をくすぐる風

 遠くでさえずる鳥の声

 波の音のようにさざめく木々の音

 先日も、敵の血飛沫を全身に浴びたばかりだと言うのに、自分は今、平穏にどっぷりと浸かって昼寝なんぞしている

 これも皮肉な話だ

 ガサッ・・・

 「ちっ・・・」

 人の気配に、カカシは目を開いた。

 絶好のスポットだと思いきや、まだ慰霊碑に通ってくる奴なんていたのか・・・?

 気配を殺して、近づいてくる人の気配を待った。

 草を踏み分けて近づいてくる。

 生え放題の草をかき分け、その気配は姿を現した。

 若い、黒髪の男だ。

 しかも、カカシと同じ制服を纏った忍で、同年代か、幾つか年下だろうか・・・

 両手には、水を満たした手桶に杓子、そして花束。

 (・・・律儀というか、邪魔くさいというか・・・)

 カカシはなおも気配を殺したまま、木の上から男が早くここから去っていくのを待つ。

 男の方は、木の上のカカシに気づかない様子だ。

 慰霊碑に水をかけ、花を取り替え、周囲の草の刈り取りまで始めた。

 くないを使って少しずつ、器用に刈っていく。

 「・・・・おいおい・・・・」

 カカシは内心で大きな溜息をついた。

 仕方ねーな、俺が他へ移るか・・・ そう思った時・・・

 「今日、五段に昇格したんだ」

 と、男が誰かに向かって喋り始めた。

 気づかれたか・・・?

 いや・・違う・・・

 カカシは、気配を殺したまま、木の上から男の独言に耳を傾けた。

 「俺、これをきかっけに、教師になろうかと思ってる」

 時々慰霊碑に笑いかけながら、男は草をむしっては、持参してきたゴミ袋に捨てていく。

 「火影様にも勧めて頂いたんだ。それに、俺、子供好きだし、子供って色々な可能性を秘めていて、一緒にいると面白いし」

 どうやら慰霊碑に眠る誰かに語っているらしかった。

 暗い奴だな・・・・

 こういう後ろ向きな人間に、カカシは心底うんざりする。

 後悔、おそれ、躊躇・・・

 人生においてこれ以上無駄な事はないだろう。

 これが致命的となり、死んでいった者も多く知っている。

 忍なら、そんな感情を捨てるべきなのだ。

 「・・・でも、そんなのは言い訳かもしれないな・・・・」

 男の、空虚との対話は続く。

 「他人の血を見るのが・・・もう耐えられないんだ・・・・どうしても、あの時の父さんと母さんを思い出す・・・・・・・」

 男の、草を刈る手が止まった。もっていたくないを握りしめたまま、しばし動かない。

 「・・・・・・・」

 カカシは、思わず息を潜めていた自分に気が付いた。

 悪い好奇心に火がついたらしい。

 と、何を思ったか、男は突然、くないの刃先を自分の左手の平に当てると、スッと線を引いた。

 「?」

 何やってんだ・・・?

 男の左手のひらに、赤い線がにじみ出ていた。

 「不思議だよな・・・・自分の血は平気なのに・・・・」

 赤い線は徐々に面積を増し、手のひらを少しずつ染めていく。

 変な男だ・・・・

 ますます関わらない方が良いかもしれない。

 だが、目が離せない。

 「でも子供が好きなのは、本当だ。大事にしてやりたいと思ってる」

 それに、と男は言葉を続ける。

 「それに・・・あの子がそのうち入学してくるだろうしね・・・・・」

 男は、慰霊碑に向かってまた、微笑する。

 あの子・・・

 ああ、「あの子」か。

 カカシが思いを巡らせていると、男は立ち上がり、手桶と杓子を持って、踵を返した。

 そして、また草をかきわけて、去っていってしまった。

 ・・・・・・・

 静寂だけが取り残される。

 カカシは、今度こそ本当の溜息をついた。

 「・・・息が詰まるかと思ったぜ・・・・ったく・・・」

 もう後は誰も来ないだろう。

 カカシは、今度こそ、木漏れ日に包まれながら、浅い眠りに身を任せ始めた。

 

 

 それからというもの、毎月、決まって同じ日の同じ時間、男は慰霊碑に現れた。

 やることは同じだ。

 水をかけ、花を取り替え、草をむしり・・・、そして話しかける。

 やれ、教育実習がどうのこうの、

 友達がどうのこうの、どこどこのラーメンがうまかっただの、誰々が何を言っただの・・・

 その月に起こった事、思った事を、男は慰霊碑にむかって語りかける。

 そのたびに、慰霊碑の上、木の枝には気配を殺すカカシの姿。

 いつの間にか、カカシは毎月、男の独り言の聞き役になっていた。

 相手は気づいていないが。

 「今日、初めて子供達が俺を「先生」って呼んでくれたんだ。嬉しかったなぁ・・・」

 天気の良さに比例して、今日は男の機嫌も良かった。

 にこにこしながら、相変わらず草をむしっている。

 幸せな奴だな、それくらいで・・

 「頭を撫でると、本当に嬉しそうな顔をしてくれるんだ。なんだか、こっちが撫でられて誉められている気分だった」

 ガキは甘やかすとろくな事がないのに・・・とカカシは思う。

 「子供は、こちらが与えれば与えるほど、吸収しては多くのものを返してくれる。そうやって子供は大きくなるんだ。

 逆にこっちが学ぶ事も多い。だから、俺は絶対に良い教師になるよう頑張ろうと思う・・・」

 カカシの下で、男は目元を細めて幸せそうに、微笑む。また時々慰霊碑を振り返っては、物言わぬ石に向かって満面の笑み。

 「・・・・・ったく・・・」

 ここに来るたび、カカシは毒気を抜かれた気分になる。

 穏やかな日よりがそうさせるのだろうか。

 萌える緑が、そうさせるのだろうか。

 ・・・・木漏れ日の様なあの男の表情が、そうさせるのだろうか・・・・。

 昼寝を目的としていたハズのカカシの休日は、毎月、この日だけは、男の独白につきあう日となった。

 おかしな関係だ。

 あの男は、気配を殺した俺の存在すら知らない。

 なのに、俺はあの男の事を、名前以外なら全部知っている。

 月に一回、三十分ほどの奇妙な、一方的な逢瀬。

 それは実に、カカシが気づけば二年間近く、続いていた。

 カカシは上忍の中堅どころに、男は(独り言から推測するところによると)正式なアカデミーの教師になっていた。

 翌日に任務を控えようと、前日まで任務に出向いていようと、

 カカシは何故か毎月、同じ時間、同じ場所に、男が現れる前に、そこで待つようになった。

 いつものつまらない独り言・・背筋が痒くなるような独り言・・・

 そんなものを聞きに行って何が楽しいんだか。

 自分にも分からない。

 だが、

 あの場所とあの時間が、休日にはちょうど居心地が良い事だけは、確かなのだ。

 カカシと男の奇妙な休日は、毎月変わることなく、続くと思われた。

 

 

 

 ガサッ!

 すぐ耳元の枝が、大粒の雨を受けて音を立てた。

 ・・・危ない・・。思わず気配を散らすところだった・・・。

 カカシは尚一層、周囲に注意を巡らせる。

 気配はない。

 この雨と、音で、消されてしまっている。

 お互い、相手の居所など分からないだろう。

 だが、

 奴らは確実にそばにいる・・・・。

 ひたすら、カカシは息を潜める事しか出来ない。

 こりゃあ、根比べだな・・・。

 そう思った瞬間、

 「!!!」

 音もなく、殺気を放つ事なく、真上から黒い影がカカシを狙って落下してきた。

 「くっ!」

 とっさに横に飛び退け、別の気に飛び移る。だが、間髪を入れずに、そこで待機していたらしき人影が、カカシを襲う。

 まるで連続からくりが次々と起動するかの様に、次々と姿を現す黒い影達が、断続的にカカシを襲ってくる。

 かわすだけで手が一杯だ。

 おまけにこの暗闇。

 敵は月夜見の目を持っているらしく、ものともせずに動き回る。

 チクショウ・・・・!

 カカシは地理的にも土地勘的にも不利な立場にいる。

 「ぅわ!!!」

 足首に、鎖が絡み付いた。

 急に引っ張られてカカシは空中でバランスを崩し、そして背中から地面に激突した。

 「ごほっ・・・!」

 脊髄を通して全身に、痛みが広がる。

 一瞬、そこに隙が生まれた。

 「シャっ!」

 それを狙い、空中から一気にカカシに襲いかかる黒い影達。

 「しまっ・・・!」

 覆面の下からもれる、後悔の言葉。

 一番嫌いな言葉だったのに・・・

 ---その時

     ヒュッ・・・

 「ぐあああっ」

 カカシのすぐ頭上で、風を切る音が重なって聞こえたかと思うと、上空から襲ってくる黒い影達が叫び声を上げ、のけぞった。

 どこかから投げられた、複数のくないが、カカシに飛びかかろうとしていた黒い影達を襲ったのだ。

 「?」

 足首に絡まる鎖を外しながら、カカシは暗闇の中で何が起こっているのか確かめようと、懸命に目を凝らす。

 カカシの背後から飛び出してきた、別の黒い影が一つ。

 忍刀を片手に、上空から降り立った黒い影の群に飛び込んでいった。

 新たな敵の登場に一瞬、怯みを見せた黒い影達だが、すぐに体制を整えると、カカシを後目にその影を追い始めた。

 影は、黒い影達を引き連れ、カカシの元から離れていく。おびき寄せているのだ。

 「何者だ・・・」

 やっとの事で鎖から自由になると、カカシは後を追った。

 影は、敵を竹林までおびき寄せると、そこで足を止めて振り返った。口元に笑みが浮かぶ。

 「!?」

 夜目がきく黒い影達がそれに気づき、咄嗟に踵を返す。

 だが、もう手遅れだと言えよう。

 カカシを救った影は、右手を顔の前で一度、振った。

 それと同時に、

 「なっ!」

 上空から、先が鋭く削られた竹が、無数に降り注いできた。

 離れた場所からそれを見ていたカカシも、思わず驚嘆する。

 トラップだ・・・

 「ぎゃぁぁっ!」

 幾人かはそれに貫かれ、残りはかろうじて串刺しは避けられたものの、地面に無数に突き刺さって出来上がった竹の檻に、動きを止められた。

 また口元に笑みを浮かべると、影は、顔の前で印を三度、切った。

 胸の前で組まれた両手から、巨大な炎の帯が生まれ、竹の檻を包み込む。

 「・・・・・・」

 断末魔を上げる間もなく、串刺し死体や竹と一緒に、残った黒い影達は全員、焼け死んだ。

 あまりの周到さに、カカシは半ば感心する。

 だが、まだ油断は出来ない。

 「誰だ・・・?」

 焼けた地面を飛び越え、カカシの側に着地した人影に、カカシはくないを構えた姿勢で、問うた。

 顔の見えない相手は、意外に物腰柔らかく、こう言った。

 「三代目に申し使って参りました、木の葉隠れの忍びです」

 「お怪我はありませんでしたか?」と付け加えて、忍は懐から巻物を取り出す。

 「これ、三代目からの書状なんですが・・・・暗くて見えませんね、今、火をおこします」

 雨が小降りになってきた。

 忍は、手頃な切り株を見つけると、そこに火を放った。周囲がほのかに明るくなる。

 「どうぞ」

 そう言って忍が振り返る。

 「っあ・・・」

 カカシの口から驚嘆の声があがった。

 「・・・・・何か・・・」

 揺れる炎が照らす光の中で、忍は訝しげに眉を少ししかめる。

 まぎれもない、あの、休日の忍・・・・。

 この地獄の中に、突然現れた、この平穏の象徴。

 まるで夢をみている感覚だ。カカシはにわかに現状を鵜呑みにする事が出来ず、首を振った。

 濡れ鼠ぼった髪から雨粒が飛び、忍の頬を濡らした。

 「あんた・・・学校の仕事は?」

 「!・・・・・」

 今度は忍が、弾かれたように目を見開き、驚きの表情を作った。

 暫し二人の間をよぎった静寂の中で、火の粉が飛ぶ音だけがする。

 「私が教師だと・・・・よく、おわかりになりましたね・・・・?」

 「初めてお会いするのに」と忍は一度肩をすくめる。

 実はそうではないのだが・・・。

 「いや・・・何となく」

 言葉を濁してカカシは渡された巻物を開いた。

 火の側で中身を確認する。

 『任務情報に間違いがあった。助っ人を送る。中忍だがトラップの類に知が通っている。役に立てたし』

 との三代目からの書状。

 「・・・・あんた、名前は?」

 巻物を巻き取りながら、カカシは中忍を振り返る。

 「・・・・イルカと申します」

 「そうか」

 いとも簡単に名前を聞き出せた。

 この二年間、出来なかった事なのに・・・

 

 里までまだ遠い。

 やはり明日までに帰還する事は不可能だろう。

 

 だが、休日は始まっている。

 いつもより少し早いが、毎月の「あの休日」が・・・・。

 

 おわり
スポンサーサイト
2005.10.25.Tue/14:25
COMMENT TO THIS ENTRY
   非公開コメント  
TRACKBACK TO THIS ENTRY

お知らせ

  • WEB拍手やご意見ご感想へのお返事は、BBSに記載しております。

管理人へ連絡


お気軽にお声がけ下さい
ID= eishika_yieza


ご意見ご感想はこちら(BBS)
ご意見ご感想はこちら(FORM)
メールはこちらから

参加中



超・長編小説同盟に参加しています。

私はClubA&Cに加盟しています。
よろしければご感想をお聞かせ下さい。
私も貴方の作品の感想をお送りさせて頂きます。

プロフィール

北野ふゆ子

Author:北野ふゆ子
> 昔は、ゲームやマンガの二次創作をしておりました。現在は主にオリジナルネット小説を執筆しています。 得意は「シリアス」「アクション」「サスペンス」です。

ブロとも申請フォーム

リンクリスト

ブログ内検索


CopyRight 2006 北凪 All rights reserved.

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。