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  かげろう 


 

 かげろう









 そこに差し出されたのは、確かに、敵将の首だった。









 戦の伏兵軍として依頼を受けた木の葉の忍部隊。

 その中に、今回は前衛部隊に所属された俺がいた。

 今回与えられた任務は、軍のからめ手として最良の助成を成す事。だが、将の首をとれば、その階級に応じて褒章が弾まれるという。

 忍達の間ででは、誰が誰の首をとったかという、その事が常に話題にあがり、まるでゲーム感覚で任務が遂行されていた。

 一番の目玉は、やはり敵将の首を誰がとるか、だ。

 その首には上忍一年分の給料と同額ほどの褒章が賭けられている事から、主に上忍達の間で、「誰が取るのか」と話が上がっていた。

 俺は、その話題の筆頭にあがっている。

 俺自身も、

 討ち取る機会を狙っていた・・・。

 自信も、あった。

 



 「しかしお前も、これ以上金稼いでも、何に使うんだ?」

 隣で、付き合い年月だけは何故か長い、元上忍仲間の八雲が杯を片手にくつくつと笑った。

 訳あって現在奴は、中忍として形式上、俺の下で共に戦場で働いている。

 「戦争孤児基金に寄付でもするか」

 「その戦争孤児を作ってるのは誰だよ」

 と、俺が最も嫌うこんな質の悪い冗談も、何故か奴となら交わせるから不思議だ。

 「ま、でも確かに、あの将軍の首を取れるとしたら…あんただろうな」

 俺に杯を勧めて、八雲は静かに微笑む。

 俺は黙って奴が勧める酒を受ける。





 そんな中・・・

 戦は唐突に幕を閉じる事となる。





 敵将の首を、見事討ち取った者がいた。





 しかも、

 一介の中忍が・・・。









 差し出されたそれは、確かに敵将の首だった。











 「お確かめ下さい・・・」

 全身を血で濡らした、まだ若い忍が右手に掴んだ首を差し出した。



 

 陣営中がどよめきに包まれた。

 陣営長を含む上忍仲間と立ち話しているところに、俺の目前に突然、差し出された首。



 俺は言葉を無くして目を見開いた。

 腕を組んだ姿勢のまま、立ちつくす。



 人相書通りの、首。



 それを差し出す、まだ若い忍。

 額当ての帯は、深紺。





 中忍だった。





 彼の背後で、友人だろうか、中忍達が数人歓声をあげていた。

 上忍を差し置いて中忍が最高の手柄をたてる。

 これは、上忍に決して逆らう事を許されていない中忍達にとって、胸をすくような出来事だったに違いない。いくら階級の差があるとはいえ、手柄に関しては絶対的な価値がある。

 それは、少なくとも今この場では、この中忍は、ここにいるどの上忍より、上部に位置する事を意味する。

 

 俺は、負けたのだ。





 「・・・・な、まさか・・・!」

 俺のすぐ隣で、上忍達が声をあげた。

 中忍は、軽く頭を下げて、首を検首台に置く。

 俺の、真正面に、首とその中忍とが向きあう形だ。

 その周りに、上忍達が群がる。





 それは一種、異様な光景だった。

 検首台の上に、鮮血まみれの首。

 見なれた光景である。

 だが、眼をひん剥いて醜く歪む首の向こうに立って俺と向きあう、黒髪の、まだ初々しささえ残す、若い忍の姿。



 「・・…」

 俺はしばし、置かれた首には手をつけず、弱くなっていく陣松明の明かりに照らされている中忍を、眺めていた。

 

 その時すぐ背後から、

 「お、イルカじゃないか」

 と声がした。

 振り向くと、赤茶けた髪の色が特徴的な元上忍、腐れ縁野郎の暁八雲。

 そして再び黒髪の中忍を振り向くと、

 大きな黒めを丸く見開いて、

 「・…八雲?」

 と驚く顔がそこにある。



 「……知りあいか?」

 俺は愚問を口にする。

 「昔、ちょっとな」

 と八雲は煮えきらない笑みを浮かべた。



 イルカ。

 それがこの中忍の名か。

 

 こりゃ当分、忘れられそうにもない名前だと、俺は思った。

 何しろ、そう考えるのはお門違いと分かってはいるが、狙っていた獲物を横取りされたのだから。



 俺は、改めて差しだされた検首台上の首を眺めた。

 偵察で見かけた時には威風堂々たる勇士振りを馬上に見せていたが、こうみると見る面影もない。

 「…では失礼します」

 と静かな声がして顔を上げると、

 イルカは顔を濡らす血を手の甲で拭いながら、中忍たちが集まる方へと去って行った。

 その後ろ姿を半ば呆然と見送りながらも、上忍達は検首台におかれた首を調べる。首の斬り口からは、まだ鮮やかな赤がしみだしては流れ、台を伝い、地面へ滴っている。



 俺は、去っていく血に汚れた中忍の背中を、消えて見えなくなるまで、見送っていた。











 「運が良かったんです」

 翌日、俺の問いにその中忍は、そう言って微笑んだ。

 諜報部に所属されていたというその中忍は、三つにわかれた木の葉軍に情報書の類を送り届ける為に、西山に陣どっていた第三陣営に仲間数人と向かっていたという。

 そこに、偶然、軍を西山とは反対方向のふもとに陣を移動させようとして動いていた敵軍の一隊と出くわした。

 その中に、

 敵将がいたというのだ。

 「失礼します」と言って立ち去ろうとする中忍の肩を、俺は掴んで引き戻した。黒髪の中忍は、目をわずかに丸くして、驚いたように振り向いた。

 「まて、運が良いで片付けられるものか」

 俺は中忍の両肩を掴むと、一度、強く揺さぶる。

 顔の中心、鼻を横切って一文字に引かれた傷跡。

 彼は眉目に怪訝そうな皺を寄せると、目を伏せた。

 「やけにこだわるな、お前」

 後で八雲にそう指摘された通り、俺はむきになっていた。



 

 だが、これは負け惜しみではない。

 プライドが、俺をそうさせているのではない。





 皆は首に気を取られていたのだろう。

 だが、

 俺は、感じた。





 首を差し出した時に一瞬見せた、



 あの中忍の瞳の奥で鈍く光った、何か。





 あれは、何だったのだろう。





 しかし俺は確かに、感じた。











 「おーい、イルカ」

 困惑する中忍の背後で、仲間の声がかかる。

 助かったとばかりに、その中忍は軽く頭を下げると、俺の元を去っていった。

 戦は終わったのだ。

 中忍達は引き上げの為の後始末、など雑事に追われる。

 最高の手柄を立てたあの中忍は、

 律儀にも日々とかわらぬ中忍としての立場を謙虚に保って仕事を行っていた。



 とんでもない伏兵だったという事だ。

 表立って前線で働く部隊ではなく諜報部に所属し、しかも「地味」と「堅実」を絵に書いたような、言いかえればあまりうだつの上がらなさそうな、まだ若い中忍。

 常に微笑をその顔に絶やさず、礼儀も正しく、人受けは良いが、空気の様な存在。



 誰も彼を気に止めていなかった。

 俺さえも・・。

 …そういえば、八雲でさえも、あの時初めてイルカに気づいたような口ぶりであった。



 見苦しい嫉妬や、プライドを傷つけられたと憤慨する上忍達も、そんな彼にには空振りをくった様だった。昨晩までは、妬みによる私刑さえ起こりかねない程の陰険な空気がよどんでいたというのに・・。

 陽的な敵概心が、中和されて抜け落ちてしまったようだ。



 不思議な男だ・・・。



 その奥に隠れる、

 俺は見逃さなかった、あの

 「何か」も含めて・・・



 俺は、確かに、こだわっていた。

 



 











 戦が終わると、残っていた雑事につきものなのは、

 残兵狩りだ。

 生き残った雑兵、逃げ隠れた将兵らを見つけ出し、処刑したり、情報を引き出したり、依頼主に引き渡すのだ。ここでの成果も、褒章に含まれる。だが、これはほとんど中忍達の仕事となるのが通常だ。戦中は上忍らが手柄をたて、そのおこぼれとしての残兵狩りで中忍が点数を稼ぐ。そういう風に出来ていた。

 戦場からそう離れていない山の麓に陣幕を張り、俺達はこの日、山狩りを行う事となった。

 とはいえ、残兵狩りに参加しない上忍達は、陣営の傍に早速火をおこし、酒宴に興じ始める。俺も、酒は断ったが陣営から少し離れた林の入り口、手ごろな木の上でくないの手入れをしながら、静かな時間を享受していた。

 

 

 「?」

 林の中から騒がしい声が近づいて来て、俺はまどろみかけた意識を引き起こされた。

 膝の上に乗せていたくないを取り落としそうになるが、間一髪でくいとめる。

 くないをすべて腰の鞘にしまいこみ、俺は体勢を変えて音や声がした方を木の上から覗きこんだ。

 

 「…雑兵か…」

 見ると、木の葉の忍び数人に連行されていく、敵方の兵士の姿。

 両腕を後ろ手で結わえられ、背中を押されながらおぼつかない足取りで歩かされている。

 「だから俺は何も知らねぇ!」

 と震える声で叫びながら訴えている。

 だが忍びらは、「黙って歩け」と冷酷に言葉を突き付ける。

 「うおっ!」

 背中を強く押されて、兵士がもんどりうって前方に派手に転んだ。

 転んだところで、林を抜け出した。

 そのちょうど前方から、俺が見知った人影…。



 「乱暴はいけませんよ」



 と言いながら、転んで倒れたままの兵士の元にしゃがみこむ、黒髪の中忍、イルカ。

 後ろ手に縛られている為に上手く身動きがとれない兵士は、倒れたままの姿勢でイルカを見上げる。

 穏やかで優(やさ)な面持ちのイルカに地獄の中の仏を見たか、すがりつくように体をよじらせて首を上げる。

 「お、俺はただの雇われ雑兵だ…だから何も知らないし、知らされていねぇんだ…」

 その顔を覗きこむように、イルカはしゃがみこんだままの姿勢で静かに問う。

 「本当に、あなたは何もしらないんですね?お名前は?」

 と脇に抱えていた厚い紙の束を捲り始めた。

 恐らく諜報活動の中で敵方から入手した、戦闘構成員一覧だろう。

 すでに首をとった将兵級の人物には赤印がつけられている。

 「え・・・っと・・」

 兵士が口にした名前を、イルカは一覧から探す。

 「あ、ありました。確かに、最も最下層に位置する公募による傭兵部隊に所属されてましたね」

 そして立ちあがり、忍び達に少々厳しい口調でたしなめる。

 「彼は本当に何も知りません。一般人ですよ。むやみな拷問や処刑をする必要はありませんよ」

 忍びらは複雑な表情だ。





 「……お綺麗な事を…」

 俺は木の上で、つい溜息をつく。



 戦争が終わった後の雑兵なぶりは、忍びらの間では通例と化していた。

 「取り調べ」という名の拷問。

 「処刑」という名のなぶり殺し。

 体から抜け落ちない「気」と「血」の高ぶり。

 それを持て余した忍びらは、戦時中よりむしろ残酷になる。

 なにしろ、仕事ではなく、一種の遊戯でそれを行うのだから。



 イルカはおそらくそうした行為を未然にする為に、こうして名簿を持ち歩いて「取り調べ」の必要の無さを立証しているのだろう。

 ああいう風に言われては、奴らも引くしかないだろう。

 しかも相手は、今回の戦の「立役者」でもあるのだから。





 俺はあの悪趣味に賛同するわけではないが、かといって「人権」がどうのという、綺麗事をいう主義でもない。

 だからどうも、俺にはイルカの行動は背筋にかゆみを呼ぶ。

 あの雑兵の縄を解いて、逃がしてやるとでもいうのだろうか。

 



 「じゃあ、この雑兵をどうするっていうんだ?逃がすのか?」

 俺の疑問を代弁して、忍びの一人がイルカに問う。

 その台詞には「せっかくの獲物を…」という本音が見え隠れしている。

 残りの二人も、不満気だ。

 「あたりまえでしょう?」

 眼を丸くして、イルカは逆に不思議そうな顔をする。

 そして眼を細めると、



 「こうするんですよ」



 と言って笑った。



 

 ボギッ





 「!」

 「っあ!」



 イルカの言葉が終わらない内に、



 その場に不気味で不吉な音が響いた。



 「………」

 俺は思わず腰を浮かした。

 忍び達は突然の事に息を飲んだ。





 すぐ下には、



 首が不自然に変形して折れ曲がった、雑兵の屍。





 叫ぶ暇も、苦しむ隙も、無かったろう。



 

 「やる事は、まだまだ沢山あるんですよ」

 名簿を小脇に、イルカは苦笑した。

 一瞬にして雑兵の首をへし折った右足を、屍から離す。

 悪びれる様子は、無い。

 躊躇も、なかった。



 

 つまりは、

 取り調べだとか、処刑にそうそう時間をかけている暇はないんですよ。



 こう言いたい訳か……。







 俺は、

 首筋に慣れない寒気を感じた。



 こういう光景も、

 俺は見なれていた筈ではなかったのか…。

 自問自答。

 

 俺自身も、何度となく敵兵の首を折り、掻き切ってきた。

 何度となく鮮血を浴び、何度となく断末魔を耳にしてきた。





 なのに…













 「気の良い奴ですよ。親切で気が利くし、お人好しで、地味だけど、堅実で」



 林から戻ってきた俺を出迎えたのは、

 酒小樽を抱えた、相変わらずにふざけた様子の八雲だった。

 林の中で見た光景を俺はかいつまんで酒の肴かわりに話した。

 「あのイルカという中忍はどういう奴だ」という俺の問いに返って来たのが、その言葉だ。

 「どこがだ」

 俺は八雲の手から杯をひったくって煽る。

 「こだわるんだな」

 苦笑する八雲の声。

 喉に流し込んだ酒がやけに熱い。

 俺は酒の匂いがする溜息を深く吐いた。

 「笑って人を殺す奴を、俺は多く知っている。だけど奴はどこか違う」



 「ああいう奴なんだよ。昔から」



 もう一つ杯を取りだして、そこになみなみと酒を注いで八雲は眼を細める。

 嬉しそうに少しずつ、それを飲んでいく。

 



 昔から…?

 奴はどういう戦歴を持っているというのだろうか。

 あれほどまでに冷酷になれ、しかもその殺気をまるで表に出さない術を、

 どうして手に入れよう…。 





 「気になる?」



 空になった杯を持ったまま、眼を伏せて黙る俺に、八雲は細く笑った目で俺に向きあう。

 「は?」

 「なんなら、仲をとりもってやってもいいんだぜ。なーに、昔の誼(よしみ)だ、遠慮するな」

 一人合点して八雲は半分まで減った杯を揺らして愉快そうに笑った。

 そして、こう言葉を付け加えた。



 「お前が何かに執着するなんて、珍しい事だし」



 「・・……」

 執着?



 唯一露出した右目に驚動の色を見せた俺にかまう事なく、八雲は杯を飲み干すと、またなみなみと酒をそそぐ。

 酒が弱いくせに好きな奴は、もう頬を赤くそめて上機嫌だ。





 「執着……か……」





 陣松明に火がともり始め、

 

 濃い藍色の空には、薄い白光の十六宵月が、いつのまにか出ていた。



 いつの間にか逢魔が時を過ぎている。





 俺は、

 八雲の手から小樽を奪うと、

 空になった杯に、透明な液体を注いだ。



 それが杯から溢れ、指先を滴り、地面にこぼれるほど。









 匂いにつられて、

 蜻蛉(かげろう)が鼻先を飛んでいった。











 おわり
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2005.10.25.Tue/14:24
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> 昔は、ゲームやマンガの二次創作をしておりました。現在は主にオリジナルネット小説を執筆しています。 得意は「シリアス」「アクション」「サスペンス」です。

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